がんにかかった今だから言えること 「がん」と「お金」と「がん保険」

がん保険に「先進医療特約」は必要?先進医療の現状と考え方

相談者

相談者:40代のパート主婦です。医療保険には加入していますが、がん保険には未加入のため、加入を検討しています。気になるのは先進医療特約についてです。子どもがまだ小さく、できるだけ保険料を抑えたいのですが、いろいろと比較してみると、どのがん保険にも先進医療特約がつけられるようです。既契約の医療保険には先進医療特約がついていますが、がん保険にもつけておいたほうがよいのでしょうか?保険料はわずかですが、特に不要なら節約したいと思っています。

黒田FP:先進医療特約は、厚生労働大臣が承認した先進医療の技術料部分を保障する特約です。先進医療とは、公的医療保険の対象にするかを評価する段階にある治療・手術など高度な医療技術のことで、評価の結果、公的医療保険の対象となったり、対象から外れたりします。最近は不妊治療に関するものが増えています。また、高額ながん治療の先進医療の代表格である陽子線治療や重粒子線治療に関しては、施設数が増加したこともあり全体の実施件数は増加しているものの、保険適用の拡大により先進医療としての実施件数は減少しています。
先進医療特約は、がん保険に付帯されている場合、がんに対する先進医療のみ。医療保険に付帯されている場合、がんも含めた先進医療が対象となります。
FPとしては、保険の目的を踏まえて、医療保険に付帯されているなら、がん保険には不要だと思います。その分、ほかの保障を充実してはいかがでしょうか。
ただし、今後、既契約の医療保険を見直し、あるいは解約する可能性があるのであれば、がん保険にも付帯しておけば安心です。いずれにせよ、先進医療の現状や受けられる可能性、保障内容と保険料のバランスを考慮して加入する原則は変わりません。

「先進医療特約」とは?

相談者さんのおっしゃるように、最近の医療保険やがん保険には「先進医療特約」が付帯できる商品がほとんどです。特約の保険料は、主契約のプランや保険会社によってさまざまですが、おおむね月100から数百円程度と少額です。
とはいえ、生命保険は長期にわたって加入するもの。“チリも積もれば”と考えると、家計を預かる主婦としては、節約できるなら…と考えるお気持ちもお察しいたします。
そこで、特約を付帯すべきか否か検討する前に、まずは先進医療特約のポイントを整理してみましょう。

先進医療特約とは、公的医療保険制度では原則カバーされない先進医療の技術料部分を保障する特約です。医療保険やがん保険などの主契約に付帯する形で契約するのが一般的で、保障範囲は、厚生労働大臣が承認した「先進医療」に限定されています。
その代表格が、陽子線治療や重粒子線治療などで、高額な先進医療として、保険商品のパンフレットに掲載されているのを目にされた方も多いと思います。

給付内容は、先進医療技術料と同額で、通算2,000万円までが上限であることが主流です。そして、生命保険は損害保険と異なり、契約した金額が支払われる「定額給付」(例:入院日額1万円など)が基本ですが、先進医療特約については、実際にかかった費用を上限まで保障する実質的な「実額給付」となっています。
これは、先進医療の技術料に大きく差があるため、定額給付にすると、安価な治療では「過剰給付」、高額な治療では「不足給付」になり、合理性に欠けるからです。
また、先進医療は、技術の進歩に応じて費用が変動する可能性が高く、制度設計上も、実額給付のほうが柔軟に運用できるという利点があります。
なお、一部の商品では「一時金(例:10万から15万円)」を併せて支払うタイプもあります。先進医療は、実施している医療機関も定められていますので、遠方から治療を受ける場合に、一時金を交通費や宿泊費として利用できれば安心ですね。
保険料は、前述したとおり、年齢・性別にかかわらず月100から数百円程度と非常に割安。保障期間は、対象となる先進医療が見直しされることを踏まえ、10年の更新型が多く、商品の中には、更新後に保険料が引き下げられたものもありました。

対象となる「先進医療」の最新の現状は?

先進医療特約は、がん保険に付帯されている場合、がんに関する技術のみが対象です。一方、医療保険に付帯されている場合、がんを含む技術が対象となります。
先進医療特約の注意点として、医療技術の進歩により、先進医療から保険適用に移行、あるいは先進医療から外れるケースもあること。つまり、対象範囲が変動する可能性が高い点が挙げられます。

そこで、今の先進医療の現状を確認しておきましょう。
以下の【図表1】は、2024年度の先進医療A(※)の先進医療総額が多いものから上位10位までの技術をまとめたものです。

【図表1】

  • 出典:厚生労働省「令和6年度先進医療技術の実績報告等について」を筆者が一部抜粋編集の上作成
    (https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001386301.pdf)

1位は、「タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養」で、昨年に続き実施件数が約9万件と最も多くなっています。
2位と3位は、がん治療に関する「陽子線治療」「重粒子線治療」が続き、以下10位までが不妊治療に関連した技術です。
あまり知られていないかもしれませんが、2022年4月に、関係学会のガイドラインなどで有効性・安全性が確認された一般不妊治療(タイミング法、人工授精)や生殖補助医療(体外受精、顕微授精、男性不妊の手術)が保険適用されてから、先進医療Aの実施件数のほとんどが不妊治療に関連した技術で占められています。
というのも、不妊治療は、患者さんの個々の状況に応じたオーダーメイドの治療がほとんど。しかし、日本では、保険診療と自由診療を併用する「混合診療」は原則禁止になっています。そこで、これを回避する目的で、不妊治療関連の技術の多くが先進医療に整理・追加されたのではないでしょうか。
また、不妊治療の分野においても、新しい検査・培養方法など、続々と技術開発が行われています。ただ、これらを保険診療として一気に取り込むのは、安全性・有効性の検証が不十分になる可能性もあります。そこで、先進医療という中間ステップを経て保険適用へという枠組みが拡大したともいえます。

  • 現在の先進医療は、「先進医療A(第2項先進医療)」(26種類/2025年10月1日現在)と「先進医療B(第3項先進医療)」(46種類/〃)の2つに分類される。先進医療Aは、先進医療技術とともに用いられる医薬品や医薬機器などが薬機法上の承認・認証・適応のあるもの。また、未承認の検査薬などを使用する場合、人体への影響が極めて小さいものも含む。先進医療Bは、薬機法上の承認などが下りていない医薬品や医療機器を使用する先進医療技術。承認や適用のある医薬品や医療機器を使用する場合でも、安全性や有効性について、実施環境や効果などを重点的に観察する必要があると判断されるものも含まれる。
    先進医療Aは、より多くエビデンス(科学的根拠)が認められれば、保険収載される可能性が高く、先進医療Bはそれよりもエビデンスが乏しいとされるものが分類されている。

がん治療における「粒子線治療」の状況は?

では、先進医療におけるがん治療はどうなっているのでしょうか。
前掲した先進医療Aの先進医療費総額の2位に「陽子線治療」、3位に「重粒子線治療」がランクインするなど、依然として、高額な費用がかかることに変わりはありません。しかし、保険適用の拡大により先進医療としての実施件数は減少傾向にあります。
粒子線治療も、ほかの医療技術と同様に「十分なエビデンス(科学的根拠)があるもの」と評価され、保険適用が妥当とされた適応症については、先進医療を“卒業して”、保険適用されていくからです。

具体的には、2016年5月に初めて、小児がんに対する陽子線治療と切除非適応の骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療が保険適用されました。
続いて2018年4月、2022年4月と診療報酬改定のタイミングで保険適用となる適応症が拡大。最近では、2024年6月に、早期肺がん(T期からUA期)(切除不能のものに限る)の重粒子線治療および陽子線治療、局所進行子宮頚部扁平上皮癌、婦人科領域の悪性黒色腫(いずれも切除不能のものに限る)の重粒子線治療が、新たに保険適用が認められるなど、どんどん適用範囲が広がっています(【図表2】参照)。

【図表2】

  • 出典:「がんとお金の真実(リアル)」黒田尚子著(セールス手帖社保険FPS研究所)P37

先進医療の適応症となっている「粒子線治療」は?

多くの適応症が保険適用になったことで、先進医療としての粒子線治療の実施件数は減少しています。
保険適用前の2015年度実績報告(2014年7月1日から2015年6月30日)によると、陽子線治療は3,012件(施設数10)、重粒子線治療は1,889件(施設数4)でした。
これに対して、保険適用されてから3年後の2018年度実績報告(2017年7月1日から2018年6月30日)は、陽子線治療が1,663件(施設数13)、重粒子線治療が1,008件(施設数5)と、施設数が増えたにもかかわらず、保険適用の拡大により先進医療としての実施件数は減っています。
さらに、前掲の最新データでは、陽子線治療が827件、重粒子線治療が442件ですから、約10年で、粒子線治療を取り巻く環境が大きく変わったことが伺えます。

【図表3】

  • 出典:厚生労働省「先進医療技術の実績報告等について」を筆者が一部抜粋編集の上作成
    ・2015年度報告(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000109796.pdf)
    ・2018年度報告(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000473030.pdf)
    ・2024年度報告(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001386301.pdf)

以下の【図表4】は、先進医療の粒子線治療の適応症となっている一覧です。
今後については、引き続き、“先進医療リスト”から外れて保険適用されることで、先進医療の適応症が減っていく可能性がある一方、保険未収載の疾患(公的医療保険が適用外)や希少がんへと対象が拡大。施設数が増え、治療精度が向上したこともあり、新たな適応症として増えることも考えられます。
あるいは、粒子線治療以外のがんに対する先進医療が登場する可能性もあるでしょう。
いずれにせよ、先進医療は定期的に見直しされるという点をしっかり理解しておくことが重要です。

【図表4】

  • 出典:「がんとお金の真実(リアル)」黒田尚子著(セールス手帖社保険FPS研究所)P37

がん保険に先進医療特約は付帯しておくべき?先端医療に対する考え方

では、結局、がん保険に先進医療特約を付帯しておくべきなのでしょうか?
先進医療特約に関しても、ほかの保険商品や特約と同じく、先進医療や先進医療特約の内容をきちんと理解し、給付と保険料のバランスや治療に対する価値観を勘案して、加入を検討するのが基本です。
技術料の上限が2,000万円もあるのに、保険料が少額=確率の低さを意味しています。つまり過剰な期待は禁物ということ。
特に、最近は、先進医療と同じ保険外併用療養費に分類される「患者申出療養」に対する保障が付帯できる商品が増えています。これも先端的な治療=“夢の治療”と混同しないこと。(患者申出療養については、本コラム【16話】「がん保険に「患者申出療養」への備えは必要か?」を参照)

とはいえ、割安な保険料で、高額な保障が受けられるなんて、まさに「保険」ならではの機能といえるでしょう。
その観点からいえば、FPとしては、「先進医療特約は付帯しておいてもよい」くらいの立ち位置です。
なお、相談者さんは、医療保険にも先進医療特約が付帯されているとのこと。基本的に、同じ保険会社で医療保険とがん保険に加入する場合、先進医療特約は重複して加入できません。
ただし、加入中の医療保険は、今の医療に対応できていますか。もし「最適化」が必要で、見直し・解約の可能性があるのなら、がん保険にも先進医療特約を付帯しておくか、中途加入が可能か確認しておきましょう。

なお、先進医療が受けられる確率は低いとよくいわれますが、私自身は、乳がん治療を行ったとき、先進医療特約の恩恵を受けました。ただし、私が受けたのは、粒子線治療などではなく、「乳がんにおけるセンチネルリンパ節の同定と転移の検索」というものです。
「センチネルリンパ節」というのは、がん細胞がリンパ流に乗って最初に到達するリンパ節のことで、‘見張りリンパ節’とも呼ばれています。乳がんの手術においてセンチネルリンパ節である腋窩(脇の下)リンパ節を同定し、そのリンパ節に乳がんの転移がなければ、無意味な腋窩リンパ節郭清を省略できるというのが、この処置の内容です。
手術後のがん患者の生活を考えると、脇の下のリンパ節郭清に伴う合併症(リンパ浮腫、腕が上がらないなど)が、最も術後QOLを左右するもの。したがって、このセンチネルリンパ節生検は、乳がん患者にとって大切な検査になります。
ちなみに、この当時のセンチネルリンパ節生検の費用は5万円。加入していた医療保険の先進医療特約から給付金をいただきました(なお、2010年4月1日より、この処置は先進医療の対象外となり、健康保険が適応されています)。
給付金の額は少額でしたが、先進医療特約を付けていなければ、医師にすすめられたときちゅうちょしたかもしれません。つまり、私にとって、先進医療特約は、治療の選択肢の幅を広げ、安心して治療に専念させてくれたものでした。
FPかつがんサバイバーとして、そこに先進医療特約を付帯する意味と役割はあると考えています。

執筆年月日:2025年8月29日

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)

CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
一般社団法人患者家計サポート協会顧問
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)

CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格

富山県出身。立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、SEとしてシステム開発に携わる。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、セミナー・FP講座などの講師、書籍や雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力している。近著に[がん患者(サバイバー)が教えてくれた本当のところ がんとお金の真実(リアル)](セールス手帖社保険FPS研究所)、[お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動](日経BP)など。

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