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高額療養費制度を踏まえたがん保険とは?
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相談者
相談者:昨年、乳がんが見つかり、現在も薬物療法で治療中の40代主婦です。今年の8月から高額療養費制度が見直しになって限度額が上がると聞いて、心底、震えあがりました。私は、夫の扶養に入っているのですが、夫の年収が1,000万円を超えるため限度額も高いです。自分に収入がないにもかかわらず、毎月10万円以上の医療費を支払っています。改正案が凍結されたときは本当にほっと胸を撫でおろしました。私のがんをきっかけに、夫のがん保険を見直したいと考えています。今後もし、限度額が上がると想定した場合、がんになったときの高額療養費制度の実態も踏まえて、どのようながん保険に加入するのがよいでしょうか?
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黒田FP:2025年度予算案で検討されていた高額療養費制度の限度額の引き上げは凍結され、現時点(2025年4月時点)では「従来どおり」となっています。とはいえ、医療保険財政などを考慮すると、いずれ引き上げられる可能性はあります。そのときに備えて、まずは、収入に応じた高額療養費制度の所得区分や付加給付の有無を確認しておくことが重要です。そして、所得区分ごとの1年間の自己負担の目安を参考に、自分がどの程度準備しておけばよいか知っておきましょう。ただし、高額療養費制度で自己負担額はある程度抑えられるものの、収入減少や、治療継続・生活維持の費用は別途必要です。これらも含め、公的制度でカバーされる範囲とされない範囲を把握しておくことです。そして、医療費に関しては、高額療養費制度が今後見直しされる可能性を考慮した場合、診断一時金重視型のがん保険や損害保険会社の実額補償(実損てん補)型のがん保険が選択肢としてあげられます。
高額療養費制度の見直しとその背景とは?
2025年度当初予算案に盛り込まれた高額療養費制度の改正。内容が二転三転して、最終的に、石破首相が3月の参院予算審議の場で、限度額引き上げの凍結を表明しました。しかし、そこに至るまで、ご相談者のように、どうなることかと不安を抱えた患者さんも少なくなかったと思います。
本コラムでも高額療養費制度は何度かご紹介しています。医療費が高額化、治療期間が長期化しやすいがん患者の‘マストアイテム’ともいうべき制度で、高額な医療費が発生した際、月ごとの自己負担限度額(以下、限度額)に年齢や所得に応じた上限を設け、それを超えた分が払い戻されるしくみです。


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*出典:「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf)

しかし、近年の超高齢社会の進展や医療の高度化、高額薬剤の普及などによって、高額療養費制度の総額が年々増加しており、医療保険財政に大きな影響を与えています。
健保組合のデータでは、高額療養費制度の支給総額が令和元年度から令和5年度までの4年間で2割以上増加。特に1か月の医療費が1,000万円以上のいわゆる高額レセプトは、この4年間で約3倍もの増加が見込まれているという驚きのデータを発表しました。
その背景には薬剤の高騰があり、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が、前立腺がんや胃がん、乳がんなど17種類のがんの薬剤費の調査を行った結果、標準的な治療の薬剤費を比較すると、現在は10年前より10倍から50倍も高くなっていることが明らかになっています。
どのような見直しが行われる予定だったのか?
そして、今の日本の社会保障政策は、年代を問わず、すべての国民が経済的な負担能力に応じて支え合う「全世代型社会保障」の構築を目指すものへと転換がはかられています。
今回の見直し案は、突然降って湧いて出てきたような話ではなく、2015年の前回の改正から約10年が経過し、国民所得が上昇していることを踏まえ、それぞれの所得に応じて限度額を引き上げなければ、制度が維持できないという判断から俎上に上がったものでした。
とはいえ、ご相談者さんが‘震えあがった’というように、その内容は、高額な治療費を長期にわたり負担せざるを得ないがん患者さんやご家族にとって、看過できるものではなかったのです。
では、どのような見直しが行われる予定だったか整理してみましょう。
具体的には、住民税非課税区分を除く、各所得区分をさらに細分化したうえで、それぞれの限度額を引き上げるなど、次のように3段階に分けて実施される予定でした。
<第1段階>2025年8月〜
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・70歳未満および70歳以上に対して、現行の所得区分を維持しつつ、すべての所得区分において負担能力に応じて2.7から15%の限度額の引き上げ。
<第2段階>2026年8月〜
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・住民税非課税世帯以外の所得区分を3つずつに分けて70歳未満で13区分、70歳以上で14区分に細分化。
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・同時にそれぞれの上位2区分の限度額を引き上げ。
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・70歳以上の「外来特例」(入院とは別に、年収約370万円未満の外来受診(通院)に適用)の1か月あたりの限度額を低所得層で据え置く一方、それ以外では年収に応じて月額5,000〜1万円引き上げ。
<第3段階>2027年8月〜
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・それぞれの上位2区分で限度額をさらに引き上げ。
実際の治療法で比較するとどのくらいの負担増になるのか?
ただ、おそらくこれだけでは、よくわかりませんよね。
そこで、実際にがん治療で使われる薬剤で、どれくらい負担が増えるか試算してみましょう。
キイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ)は「抗PD-1(ピーディーワン)抗体」に分類される免疫チェックポイント阻害薬の一つです。
適応となるのは、非小細胞肺がん、頭頸部がん、悪性黒色腫(メラノーマ)、腎細胞がんなど。点滴の薬剤で、患者さんの副作用などに応じて、3週間または6週間ごとの投与を繰り返します。
現行制度で、キイトルーダ®の治療を受けた場合、3割負担+高額療養費制度の適用後の1か月の限度額は、以下の図表のとおりです(【図表1】参照)。
平均的な年収(所得区分ウ:約370万から770万円)の場合、8万円台ですが、年収約770万円以上の所得区分ア・イは、1か月に1回投与の場合、128,700円です。この額は高額療養費制度が適用されていません。3割の負担額が高額療養費制度の限度額を超えないためです。
1か月に2回投与の月にようやく適用になります。したがって、多数回該当(直近12か月高額療養費制度の払い戻しを受けた月数が3か月以上あった場合、4か月目から限度額が引き下がるしくみ)の適用まで時間がかかり、結果として、年収770万円未満の患者さんよりも年間の実質的な自己負担はかなり膨らむはずです。
【図表1】現行制度の場合の自己負担限度額(70歳未満)

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*出典:キイトルーダ®.jp「キイトルーダ®による治療を受けている患者さんへ 高額医療費制度について―2024年4月改訂版−」より一部抜粋のうえ、筆者が編集作成
次の図表が、見直し案が実施されていた場合の限度額です(【図表2】参照)。
2025年8月以降、【第1段階】の見直しの負担増は、所得区分に応じて約2万円から900円とだいぶ開きがあります。所得区分イよりも所得区分アのほうの増加額が多いのは、単に後者が高額療養費制度の適用外だからです。
さらに、2026年の【第2段階】、2027年の【第3段階】になると※マークの所得区分が増えてくることがわかります。つまり、高額療養費制度の適用にならない患者さんたちです。
ちなみに、高額療養費制度の適用を受けられる1か月の総医療費の額は、2026年8月以降、所得区分1が122万4,000円超、所得区分2が108万4,000円超。2027年8月以降になるとさらにハードルが上がり、所得区分1は148万1,000円超、所得区分2は120万1,000円超となります。適用を受けられなければ、多数回該当にもならず、治療が続く限り、3割の自己負担がダイレクトにかかるということです。
一方、適用になっても、各所得区分の最も低い所得帯以外では、負担額がじわじわと増えていることが見て取れます。
【図表2】見直し案が実施された場合の自己負担限度額(70歳未満)
(*赤字は現行制度との比較)

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*出典:キイトルーダ®.jp「キイトルーダ®による治療を受けている患者さんへ 高額医療費制度について―2024年4月改訂版−」より一部抜粋のうえ、筆者が編集作成
患者団体などは「破滅的医療支出」の試算を提示して見直しに反対
WHO(世界保健機関)は「手取り額から食費、住居費、水道光熱費などの基本的生活費を差し引いた額に対して、医療費の割合が40%を超える」場合を「破滅的医療支出(Catastrophic health expenditure)」と定義しています。
‘破滅的’とは、かなりインパクトのある表現ですね。それほど医療費が家計に占める割合が高くなると、貧困に陥るということです。
有識者やがん患者団体は、予算案のとおり限度額引き上げが行われた場合、多数回該当を除いて、すべての収入で破滅的医療支出を超える水準となる試算を示し、見直しに反対しました。
この試算にも使用された総務省の家計調査をもとに、破滅的医療支出がどれくらいの額か計算してみましょう(【図表3】参照)。
税金や社会保険料を差し引いた可処分所得が494,668円(@)に対して、食料(26.5%)、住居(6.0%)、水道・光熱(7.4%)として合計39.9%。消費支出318,755円×39.9%=127,183円(A)です。
WHOの定義によると、可処分所得から基本的生活費を差し引いた額が40%を超えると、破滅的医療支出が発生している世帯となるわけですから、二人以上の勤労者世帯の場合、医療費が(@-A)×40%=146,994円を超えると破滅的医療支出になるわけです。
高額療養費制度の平均的な年収区分(所得区分ウ:約370万〜770万円)の場合、限度額は約8万円ですから、たしかに、かなりの額ですね。
【図表3】

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*出典:「2023年(令和5年)家計の概要」(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/2023np/pdf/summary.pdf
ただし、FPとして気になるのは、総務省「家計調査」の「住居」費用は、実際に支払われた家賃や地代、住宅関連の経費を対象としており、住宅ローンの元本返済部分(借金の返済なので消費支出には該当しない)や住宅の購入費用(資産の取得であり、消費支出に含まれない)は含まれていないという点です。
住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査(2024年10月調査)」では、年収に占める年間返済額の割合(平均返済負担率)は「15%超から20%以内」が最も多くなっています。
昨今の物件価格を反映して、首都圏を中心に高額な住宅ローンを返済しているご家庭も少なくないはずです。これだけ高い割合を占める支出を除外して試算することにFPとしては、違和感を覚えます。
もちろん、国への提言を行うための「社会全体の傾向を客観的に把握できるデータ」として、家計調査が最も適切なデータソースであるのは理解できます。しかし、実態を踏まえると、現行制度であっても、すでに多くの患者世帯が破滅的医療支出に該当しているのでは、と危惧しています。
がん患者さんの6割ががん治療開始後3か月以内に収入が減少
というのも、がんに罹患した後、すぐに収入が減ってしまう患者さんが少なくないからです。
今年の2月に私が顧問を務める一般社団法人患者家計サポート協会が行った患者調査によると、がん治療開始後、収入が減少した患者さんは6割で、このうち4割は治療開始後3か月以内に減少しています。つまり、がん告知を受け、あれよ、あれよという間に収入が減ってしまうのです。
どれくらい減るのかについては、治療開始後に収入(手取り本人月収)が減った金額の平均が、診断時の所得区分ア(年収約1,160万円〜)40.3万円、所得区分イ(年収約770〜1,160万円)16.8万円、所得区分ウ(年収約370〜770万円)13.4万円、所得区分エ(年収〜約370万円)11.8万円、所得区分オ(住民税非課税世帯)1.0万円となっています。
また、同居家族がいる場合、単身世帯に比べて収入を維持しやすいものの、患者家族も、がん患者を支えるために働き方が制限されるケースも多く、世帯収入(手取り世帯月収)の変化をみると、収入が減少した場合の減少額が本人収入の変化よりも大きく、がんが世帯全体の経済状況に影響を与えていることが明らかです。
収入が減少した人は維持できている人に比べ、預金の切り崩しが2倍、治療間隔の変更が2倍、借金が2.5倍、離婚を考えた経験が2倍と高い割合で経済的な影響を受けていたと聞けば、その深刻度もご理解いただけるでしょうか?
【図表4、5】診断時高額療養費・所得区分(アからオ)×治療中の手取り月収

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*出典:一般社団法人患者家計サポート協会「がん患者の経済的負担に関する実態調査」(2025年 3月18日)
http://patient-support-fp.com/wp-content/uploads/2025/03/6980c13bcc5507e87bc3c4f133b2ec57.pdf
収入が減っても高額療養費制度の所得区分は約9割が罹患前のまま

さらに重要な点は、収入が減少したにもかかわらず、その患者さんの約9割は、収入減少前の高額療養費制度の所得区分のまま、医療費を支払い続けているということです。
この点は、患者さんの相談を受けていても非常に悩ましいと感じています。高額療養費制度の所得区分は、会社員・公務員の場合、標準報酬月額(=月給ベースの健康保険の等級)で決まります。標準報酬月額の決定(定時決定)は、毎年4月〜6月に支払われた給与の平均額をもとに算出。その結果は、7月に決定通知され、9月分から新しい保険料が適用されます。
そして、休職中で給与が支払われなくても、原則として、標準報酬月額は直ちに変更されません。社会保険料の等級は直前の給与をもとに算出された額がそのまま適用されるのです。
また、自営業・個人事業主の場合、所得区分は所得金額(前年の住民税課税所得)で判断されます。がんに罹患する前年の収入が多ければ、罹患後に収入が減ったとしても、高額療養費制度の所得区分は高いときのまま。調査結果のとおりというわけです。
限度額に達しないため多数回該当の恩恵が受けられない人が3割以上
同調査では、さらに高額療養費制度の機能が十分にセーフティーネットとして作用していない面も浮彫になりました。
高額療養費制度には、治療が長期化した人のために、限度額のハードルがもう一段階下がる多数回該当のしくみがあります。調査では、約22%の患者さんが「該当しなかった」と回答。その理由が、前掲の【図表1】でご説明したように、かかった医療費が高額療養費制度の「限度額に達しなかった」からと回答した人が34%もいたのです。
当然のことながら、年収約770万円以上の所得区分ア・イの人は、所得区分ウ・エ・オの人に比べ、限度額に達しなかった割合がかなり高くなっています。
現行制度でもこのような現状だとすると、もし限度額引き上げの改正が行われた場合、さらに多くの患者さんが、限度額にギリギリで届かず、多数回該当の適用にもならず、高額な医療費を負担することになります。
【図表6】高額療養費・所得区分(アからオ)×多数回該当

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*出典:一般社団法人患者家計サポート協会「がん患者の経済的負担に関する実態調査」(2025年 3月18日)
所得区分に応じて1年間の医療費の自己負担の目安は?
このように、がん治療の現場においていろいろと課題もある高額療養費制度ですが、がんなどの病気を抱えた人の心強い味方であることは間違いありません。
ですから、がんの医療費への備えを考える場合、まずは、ご自身やご家族の所得区分を確認し、限度額を知っておくことが第一歩です。
以下の図表は、治療が1年間続いた場合の自己負担の目安です。金額に幅があるのは、がん告知を受けた後、高額療養費制度の適用を3月(回)受け、4(月)回目以降、多数回該当の限度額を負担した額と、限度額に届かないけれども上限額に近い額を1年間(12月)負担した額を提示しているためです(【図表7】参照)。
なお、勤務先の健康保険組合に付加給付がある場合は、もっと自己負担の目安は下がります。必ず、付加給付の有無もご確認ください。
ただし、この金額はあくまでも公的な医療費の目安であり、通院費や入院時の雑費など医療費以外にかかる費用や収入減少分は考慮していません。
また、がんの種類やステージ、早期がんや進行がんかなどによって、治療期間も変わってきます。1年間としたのは、手術や薬物療法、放射線療法など、おもな治療の多くが1年のうちに行われるケースが多いためです。
【図表7】所得区分別の1年間の自己負担の目安
横スクロールできます
所得区分(年収) | ひと月あたりの自己負担限度額(円)@ | 多数回該当A | 1年間の自己負担の目安(@×3月+A×9月)〜(@×12月)万円 |
---|---|---|---|
約1,160万円〜 |
252,600円 |
140,100円 |
約202〜302万円 |
約770〜1,160万円 |
167,400円 |
93,000円 |
約134〜200万円 |
約370〜770万円 |
80,100円 |
44,400円 |
約64〜96万円 |
〜約370万円 |
57,600円 |
44,400円 |
約57〜68万円 |
住民税非課税者 |
35,400円 |
24,600円 |
約33〜42万円 |
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*厚生労働省の資料などをもとに筆者にて試算、作成
そこで、医療費への備えを考えた場合、現時点で、預貯金や既契約の保険で上記の目安がまかなえるという人は、ひとまず準備ができているといえるでしょう。
一方、この額が用意できていない、あるいは預貯金はあるけれども医療費としてまかなうのはちょっと厳しいという人は、不足分を預貯金で貯めるか、民間保険に加入して備える必要があります。
高額療養費制度をベースに考えるとがん保険はどう選ぶ?
それでは、この高額療養費制度をベースに考えた場合、見直しの可能性も踏まえて、どのようながん保険に加入すればよいでしょうか?
おもに選択肢は2つ考えられます。

1つ目は、一時金重視型のがん保険に加入する方法です。最近多くのがん保険に付加されている治療に対して給付金が受けられる治療給付重視型は、入院から通院にシフトしているがん治療に対応でき、割安な保険料で合理的に保障が準備できるという点が大きなメリットです。
その一方、今後、高額療養費制度の限度額が見直しによって引き上げられた場合、給付金の額では医療費に足りない可能性があります。一般的に、治療給付金の額は5から30万円に設定できますが、多くのお客さまはご自身の高額療養費制度の所得区分を基準に給付金の額を決めておられるでしょう。
その点、診断一時金は、診断時だけでなく、治療が行われている限り1年〜3年に1回など、まとまった一時金が受け取れます。医療費以外にも収入減少や医療費以外の費用をまかなうことが可能です。ただし、給付金の額を高額にすればその分保険料負担も増えます。その場合、終身型ではなく定期型を選べば保険料を抑えることが可能です。
2つ目は、実額補償型のがん保険に加入する方法です。先進医療や自由診療の実際にかかった医療費などを一定の上限まで補償してくれます。
商品によって、保険料や高額療養費制度の取り扱い、診断一時金の支払い回数、自由診療の対象となる病院など、内容は異なりますが、実際にかかった費用を補償してくれる点や5年ごとの更新がある点などは共通です。
公的制度だけでなく、昨今はがん医療の進歩スピードはかなり速くなっています。基本的に、生命保険会社の定額型のがん保険は、発売された当時の治療をベースに設計されています。保障内容ががん治療の現状に追いついていない可能性も十分に考えられるわけです。
その点、実額補償型のがん保険は、エビデンス(科学的根拠)のある治療であれば、補償されるので見直しは不要という観点で非常に合理的だと思います。
凍結された高額療養費制度の改正に関しては、今年の秋までにあらためて検討し、決定する方針が示されています。5月1日に開催された厚生労働省の医療保険部会では、新たに専門委員会を設けて、制度の見直しに向けた議論を集中的に行う方針を示し、了承されました。
委員は、有識者のほか、患者や医療関係者などの代表で構成し、患者団体や医療保険の保険者へのヒアリングや制度の見直しによる家計への影響分析などを行うということで、5月下旬の26日に初めての会合が開かれています。
会合の中で、委員からは「国全体の医療費を抑えるためには高額療養費制度を見直すのではなく、ほかの手段を検討すべきだ」という指摘があがる一方で、「現役世代の保険料負担が重くならないように見直しは行わざるを得ない」といった意見が出されたようです。
患者を支援する立場としては、高額な引き上げを容認できるものではありません。とはいえ、医療保険財政を考えると、ずっとこのままでは難しいのも理解できます。
いずれにせよ、社会保障の負担増は覚悟しておくべきでしょう。その上で、高額療養費制度をベースにがん保険を考えるというのは、「どこまで国が守ってくれるのか」「それ以外は自分でどのように備えるか」という視点で、過不足ない合理的な保険選びをするということです。
執筆年月日:2025年6月19日

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
一般社団法人患者家計サポート協会顧問
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格
執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格
富山県出身。立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、SEとしてシステム開発に携わる。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、セミナー・FP講座などの講師、書籍や雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力している。近著に[がん患者(サバイバー)が教えてくれた本当のところ がんとお金の真実(リアル)](セールス手帖社保険FPS研究所)、[お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動](日経BP)など。
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【第21話】がん遺伝子パネル検査とがん保険
2023年12月12日(火)
50代男性です。先日、会社の同期が肺がんと診断されました。ステージWでほかの臓器に転移している状態のため、薬物療法を受けるそうです。でも、まだ体力がある間に、がん遺伝子パネル検査を受けようか悩んでいると言っていました。・・・>続きを読む

【第22話】〜子宮頸がんとがん保険〜子宮頚部の異形成と診断!がん保険には加入できる?
2024年3月19日(火)
20代独身の会社員です。先日受けた子宮頸がん検診で要精密検査の通知が届き、婦人科で検査を受けたところ、「中等度異形成」と診断されました。医師からは、がんではないと言われています。・・・>続きを読む

【第23話】知っておきたいがん保険の「付帯サービス」の活用法
2024年6月14日(金)
最近、保険会社の付帯サービスが目に付くようになりました。いろいろなものがあるようですが、付帯サービスは、すべて無料で受けられるのでしょうか。また、どうして保険会社では付帯サービスを提供するのでしょうか。・・・>続きを読む

【第24話】資産形成とがん保険
2024年7月31日(水)
SBI損保のがん保険(自由診療タイプ)に加入している40代独身(男性)の会社員です。今度、5年間ごとの更新時期を迎え、保険料があがってしまいます。数年前から、将来のためにNISAで積立投資も始め、・・・>続きを読む

【第25話】がん検診でがんが見つかる人はどれくらい?〜がん検診のメリットとデメリット〜
2024年11月22日(金)
今年20歳になる大学生の娘に自治体から子宮頸がん検診の案内が届きました。近年、子宮頸がんは若年化が進んでいるそうですし、もちろん検診は受けさせるつもりです。ただ、がん検診でがんが見つかる人はどれくらいいるのでしょうか?・・・>続きを読む

【第26話】がん保険は、生命保険会社と損害保険会社でどう違う?
2025年3月26日(水)
40代の会社員です。もうそろそろがん保険への加入を検討しています。どんながん保険があるのか、インターネットでおすすめ商品を検索してみましたが、あまりにもたくさんあって、どれを選べばよいのかわからなくなるばかりです。・・・>続きを読む

【第27話】高額療養費制度を踏まえたがん保険とは?
2025年6月19日(木)
昨年、乳がんが見つかり、現在も薬物療法で治療中の40代主婦です。今年の8月から高額療養費制度が見直しになって限度額が上がると聞いて、心底、震えあがりました。私は、夫の扶養に入っているのですが、・・・>続きを読む
2025年5月 25-0072-12-001