がんにかかった今だから言えること 「がん」と「お金」と「がん保険」
がんにかかった今だから言えること 「がん」と「お金」と「がん保険」

就業不能保険とがん保険

相談者

相談者:30代男性・独身です。新卒でIT企業に入社しましたが数年前に退職し、現在はフリーランスでweb制作などを請け負っています。年収は約800万円です。でも、ここから税金や社会保険料・経費などを支払うと、あまり貯蓄はできません。会社員の頃に比べて公的保障が薄く、病気やケガで働けなくなったときのことが心配で、就業不能保険を検討中です。一方、父をがんで亡くしており、がん保険も気になっています。就業不能保険とがん保険は、どう違うのでしょうか?どちらを優先させたら良いでしょうか?

黒田FP:就業不能保険は、病気やケガで長期間働けない状態が続いた場合に備える保険です。一方、がん保険は、がんにかかる治療費やがんで働けなくなったときの収入減少に備える保険です。いずれも収入減少に備えることが可能ですが、保障の内容や給付のタイミング、給付条件などまったく異なります。それぞれの違いを十分理解した上で、ご相談者のニーズや目的に合わせて、単独あるいは組み合わせて利用されることをおすすめします。

「就業不能保険」と「がん保険」の違いは?

就業不能保険は、病気やケガなどによって、入院・在宅療養等で長期間働けない状態が続いた場合に給付金が受け取れる保険です。
働けなくなっても、生活費はこれまで通りかかります。そのうえ病気となれば医療費も上乗せされます。ご相談者はフリーランスとのことですが、オフィスなどを借りている場合、その家賃等もかさむでしょう。

「就業不能保険」と「がん保険」の違いは?
「就業不能保険」と「がん保険」の違いは?

一般的に、公的な収入補てんの仕組みとして健康保険の傷病手当金があります。しかし、受けられるのは収入の2/3程度で、最長1年6ヵ月までと期間限定の制度です。その上、ご相談者が心配されているように、自営業・自由業には適用されません。
就業不能保険は、いわば公的保障を補完あるいは自助努力として、働けなくなったときの収入減少に備えるためのものです。

所定の働けない状態が継続する限り、60日あるいは180日などの支払い対象外期間を超えて、保険期間満了まで就業不能給付金が毎月受け取れます。また、高度障害状態になった際に高度障害給付金が受け取れる商品もあります。
単体商品として加入できるほか、死亡保障や医療保障などに、特約として就業不能保障を付帯することも可能です。

一方、がん保険は、がんにかかったときに備える保険です。
診断給付金や手術給付金、入院給付金、通院給付金、先進医療給付金など、商品や付帯する特約によって、がんに関わるさまざまな費用に対応できるようになっています。
がんにかかって働けなくなったときの収入減少についても、診断給付金を手厚くしたり、がんと診断された翌年から5年間、生存している限り毎年受け取れる収入サポート給付金が付帯できる商品を選択したりすれば、収入の補てんに役立ちます。
また、抗がん剤治療や放射線治療、ホルモン治療を受けた場合に支給される治療給付金特約を付帯して、治療を受けた月ごとに一定の給付金(10万円〜30万円など)を受け取ることも可能です。

がん医療の進歩によって生存率が向上したことなどを背景に、最近のがん保険は、がんによる休業や治療中の収入減少をカバーできる保障も増えつつあります。これらを活用すれば、がん保険でも働けないリスクに対応できるというわけです。

就業不能による収入減少リスクに対して、「がん保険」で備える場合の4つの注意点

就業不能による収入減少リスクに対して、「がん保険」で備える場合の4つの注意点 就業不能による収入減少リスクに対して、「がん保険」で備える場合の4つの注意点

しかし、収入減少リスクをがん保険でカバーする場合、対応しきれない部分もあります。要するに、がん保険で収入減少リスクに備える場合の注意点です。あるいは就業不能保険で備える場合のメリットや優位な点と言い換えられるかもしれません。
おもなポイントは次の4つです。

  • がん以外の病気やケガの収入減少には備えられない
    当たり前ですが、がん保険は、がんに特化した保障ですので、がんによる収入減少に備える場合のみ有効となります。
    ご相談者はまだ30代ですから、交通事故や精神疾患など、がん以外の病気やケガで働けなくなる可能性は十分に考えられます。幅広い病気等に備えたいのであれば、就業不能保険を選ぶべきです。
  • がん保険は、基本的に医療費など支出増を補てんするためのもの
    基本的に、がん保険や医療保険は、がんや病気・ケガの医療費や治療費を補てんするための、支出増に備える保険です。収入サポート給付金など、収入の補てんに利用できる適切な特約を選択しなければ、入院や手術は保障されても、収入減少まで十分まかなえない可能性もあります。
  • 給付金が受けられる要件を十分に理解・確認する
    例えば、治療給付金は、抗がん剤治療など所定の治療を受けた場合に給付されるものですが、そもそも、対象となる治療を行わなければ受け取れません。無治療のまま在宅療養だけで、体調が悪く働けない場合は、給付の対象にならないのです。
    また、給付の対象となる薬剤の範囲も、保険適用の薬剤のみ・国内未承認の薬剤も可・経口薬剤は対象外・ホルモン剤は対象外など、商品によってさまざまです。
    さらに、抗がん剤治療を長期間受ける患者さんもいますが、給付の上限が60ヵ月あるいは120ヵ月など設けられている商品もあり、無制限ではありません。
    そして、治療を受けた月のみ給付金が受け取れる商品の場合、通院した月しか対象にならないというのも気づきにくい点です。
    要するに、がん保険の場合、受ける治療の内容次第で、予想していたよりも収入の補てんにならない可能性があります。したがって、保険に加入前に、どのような治療に対して給付金が受けられるのか、あるいは受けられないのかを、保険会社や保険代理店の担当者等に具体的に説明してもらったり、自分で調べたりして、しっかり理解しておく必要があります。一方、就業不能保険の場合、給付要件はあるものの治療の有無に関わらず給付金が受け取れます。
  • 毎月受け取る給付額の設定
    がん保険に付帯できる治療給付金は、金額や受取方法が一律で選べない商品もあり、設定の「柔軟性」という点ではやや物足りないかもしれません。
    一方、就業不能保険の就業不能給付金は、年収によって上限があるものの、月額10万円から50万円まで、5万円単位など、状況に応じて細かく設定できます。
    ですので、生活費のベースとして10万円、住宅ローンを補てんしたいから15万円、子どもの教育費に備えたいから20万円といったように給付金額を自由に決められます。
    受取方法についても、1回目から満額受け取れるタイプや、一定期間は半額のハーフタイプを選択できる商品、毎月ではなく一括で受け取れる商品などもあります。

「就業不能保険」で備える場合の4つの注意すべき点とは?

「就業不能保険」で備える場合の4つの注意すべき点とは? 「就業不能保険」で備える場合の4つの注意すべき点とは?

となると、収入減のリスクに対応するなら「就業不能保険」に加入しておいた方が安心と言えますが、その際にも、いくつか留意点があります。
おもに次の4つが挙げられます。

  • 就業不能保険の給付条件
    基本的に、就業不能給付金が支払われる条件は、「働けなくなった」場合ですが、この定義が各社異なり、いかにこの認定基準範囲が広いかが就業不能保険選びのポイントの1つにもなっています。
    一例を挙げてみましょう。以下はA社の就業不能保険の働けなくなった場合(精神疾患を直接の原因とするものを除く)の定義です。
    • 病気やケガの治療のため、日本国内の病院・診療所に入院している状態
    • 病気やケガの治療のため、医師の指示により日本国内の自宅等で治療に専念している状態
    • 国民年金法施行令に定める障害等級2級以上に認定された場合
    要するに、「入院」、「在宅療養」、「障害等級2級以上」のいずれかに該当しなければ、給付金の対象にならず、これががん保険と比べてハードルが高いと感じる人もいます。
    ちなみに、障害等級2級とは、「日常生活に大きな支障はあるが、最低限の日常生活(着替え等)は何とか自分自身でできる状態。原則として仕事はできない」が障害の程度の目安です。
    寝たきりとはいえませんが、行動範囲はほぼ自宅内に限定され、仕事などもできません。就業不能保険の場合、入院や在宅療養以外ではここまで状態が悪化しなければ、給付金の対象にならないという点には注意が必要です。
  • 就業不能保険の給付のタイミング
    就業不能保険は、発症してすぐに給付金がもらえるわけではありません。がん保険とは、給付金が出るタイミングが違います。
    就業不能保険には、支払い対象外期間(免責期間)があり、前述のような就業不能状態に該当した場合でも、給付がすぐにスタートするわけではありません。なかには、免責期間が設けられていない商品もありますが、60日や180日などの所定の期間が設けられている商品がほとんどです。
    そもそも就業不能保険は、病気やケガなどによって長期にわたって働けない状態が継続した場合に備えるものですので、1ヵ月程度で復職できたという場合は対象外です。
    それに対して、がん保険の場合、通常は保険に加入してから90日間の免責期間が設けられているものの、それ以降はがんと診断されればすぐに診断給付金が受け取れます。
    がん告知後は、検査や通院・入院など何かとお金がかかりますので、早々に給付金が受け取れるのはありがたいものです。
  • 安定した勤労収入が必要
    基本的に、就業不能保険は収入を補てんするためのもの。ですから、学生や年金生活者、資産生活者、無職の方などは加入できません。年収100万円未満のパート収入のある主婦(夫)は対象外で、加入できても給付金の設定額に制約があるのが通常です。
    年収100万円未満であっても、病気やケガで働けなくなり、収入がなくなれば家計にとっては大打撃です。さらに、家事や育児・介護などを担う妻が入院ともなれば、医療費に加えて、家事等をアウトソーシングする費用がかかるかもしれません。
    がん保険はがん限定にはなりますが、収入がゼロあるいは低くても個々の状況に応じて自由に保障を設定することができます。
  • 保険期間は「定期」のみ
    就業不能保険の目的から、加入可能年齢は一般的に働ける間で、保険期間も加入時の年齢によって55歳までから70歳まで選べるといったように、一定期間のみ保障する仕組みになっています。
    したがって、一生涯の収入減少リスクに対応したいというニーズには向きません。例えば、30代であるご相談者が保険期間および保険料払込期間を65歳満了とする就業不能保険に加入した場合、65歳以降の保障は消滅します。
    がんの発症リスクは高齢期になれば高まるものですし、60歳代後半も継続して働く方も増えていますので、就業不能保険で備えるなら、保険期間をいつまでに設定するかの判断は慎重にすべきでしょう。

「がん保険」と「就業不能保険」は組み合わせて使うのがベスト

このように考えていくと、「がん保険」と「就業不能保険」はどちらを優先させるか?というよりも、両者の特徴を踏まえて、それぞれを単独あるいは組み合わせて利用するのがベストではないでしょうか?
例えば、ご相談者が、がんなどの病気やケガは公的医療保険の高額療養費や預貯金でまかなうので、治療が長引いて働けなくなった場合の収入減少リスクに備えたいという希望があれば、シンプルに就業不能をカバーする就業不能保険のみ加入すれば良いでしょう。
あるいは両方に加入し、がんと診断されて手術や抗がん剤治療が始まれば、働けなくなって収入が減少する可能性が高いので、がん保険の給付金で支出増や収入減に対応する。さらに、治療が長引いて症状が悪化すれば、就業不能保険の給付金を活用するといった方法も考えられます。

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)

CFPR 1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格、第2種情報処理技術者資格
初級システムアドミニストレータ員資格

富山県出身。立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、SEとしてシステム開発に携わる。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、セミナー・FP講座等の講師、書籍や雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力している。

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