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がん検診でがんが見つかる人はどれくらい?〜がん検診のメリットとデメリット〜
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相談者
相談者:今年20歳になる大学生の娘に自治体から子宮頸がん検診の案内が届きました。近年、子宮頸がんは若年化が進んでいるそうですし、もちろん検診は受けさせるつもりです。ただ、がん検診でがんが見つかる人はどれくらいいるのでしょうか?まだ、学生ですから、がん保険などにも加入していません。これまで、50代の私自身も、毎年のように、がん検診を受けていましたが、子どもに検診についてどんなことを伝えておくべきですか?
-
黒田FP:がん検診でがんが見つかる人は、がんの種類にもよりますが、子宮頸がん検診の場合、約3,847人に1人です。また、女性で罹患者が最も多い乳がんの検診の場合、約325人に1人となっています。ただ、がんの発見経緯を見てみると、がん検診などによって、がんが見つかった人は15%ですから、日ごろから、気になる症状の有無や体調の変化には注意をしておくべきでしょう。がん検診については、ただ何となく受診するのではなく、その目的や検査内容、メリットやデメリットを十分理解し、エビデンスのある適切な検診を定期的に受けることが重要であることをぜひともお伝えください。
「がん検診」の目的はがん死亡率の減少
ご相談者のように、自治体からのお知らせや勤務先の検診があるから、いつも何気なくがん検診を受けているという人は多いでしょう。
今回のコラムでは、がんサバイバーFPから見たがん検診について知っておきたい基本的な知識から最近の状況、がん検診のメリット・デメリットについてご紹介したいと思います。
そもそも、皆さんは、「健診」と「検診」の違いがわかりますか?
前者は、健康診査もしくは健康診断の略称で、健康状態を確認し予防するための総合的な検査のこと。後者は、ある特定の部位や疾患の検査を行う臨床的な検査のことです。
いずれも、国の法律によって実施が義務付けられている「法定」と個人が任意で受診する「任意」に大別されます。
たとえば、法定健診には、特定健康診査や児童・生徒らへの学校健診、妊婦健康診査、乳幼児健診などがありますし、任意健診としては、人間ドックが代表的です。
一方、「検診」には歯科、眼科、結核・肝炎ウイルスなどを対象にしたものがあり、がん検診は、自覚症状のない人に対して行う、がんを対象にした検査のことです。
健診の目的が、疾病の発症や重症化予防だとすれば、がん検診の目的は、ズバリがんによる死亡率の低下です。がんは、日本人の死亡原因の第1位ですから、国が、がん検診に注力する意味もおわかりいただけるでしょう。
そして、がん検診は、「対策型がん検診」と「任意型がん検診」の2つに分類されます(図表1参照)。
なお、人間ドックは、任意健診にも重複して挙げられていますが、人間ドックには法的な定義が存在しません。一般的に、人間ドックは、がんも含めた疾病などに対する総合的な健康診断という位置付けです。任意で受診できるという観点から任意がん検診においても同じような呼称が使われているのだと思われます。
【図表1】対策型がん検診と任意型がん検診の特徴
対応型がん検診(住民検診) | 任意型がん検診(人間ドック) | |
---|---|---|
対象 |
検診対象として特定された人(一定の年齢範囲の住民など) |
特になし |
頻度 |
1から2年度ごと |
任意 |
結果 |
がんの有無のみ |
がん以外の疾病もわかる |
費用 |
無料or500円〜数千円程度 |
全額自己負担(ただし自治体や健保組合などで一定の補助を行っている場合もある) |
メリット |
費用負担が軽く、実施のお知らせが届く |
検査内容はオプションで選ぶことができ、ほかの疾病が見つかる可能性もある |
デメリット |
検査対象のがんのみ(5大がんなど) |
がん検診に比べ費用が高額。検査に1日以上かかる場合もある |
- *筆者作成
科学的根拠に基づいた「5大がん検診」とは?
自治体が実施している住民検診は、厚生労働省の「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針」で定められた科学的根拠(エビデンス)に基づくがん検診です。
胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つを対象にしているため、「5大がん検診」とも呼ばれ、検査項目や対象者などが細かく規定されています(図表2参照)。
【図表2】
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種類 | 検査項目 | 対象者 | 受診間隔 |
---|---|---|---|
胃がん検診 |
問診に加え、胃部エックス線検査または胃内視鏡検査のいずれか |
50歳以上 |
2年に1回 |
大腸がん検診 |
問診および便潜血検査 |
40歳以上 |
年1回 |
肺がん検診 |
質問(問診)、胸部エックス線検査および喀痰細胞診 |
40歳以上 |
年1回 |
乳がん検診 |
質問(問診)および乳房エックス線検査(マンモグラフィ) |
40歳以上 |
2年に1回 |
子宮頸がん検診 |
問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診 |
20歳代 |
2年に1回 |
問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診 |
30歳以上 |
2年に1回 |
|
問診、視診およびHPV検査単独法 |
30歳以上 |
5年に1回 |
- *出典:「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(令和6年2月14日一部改正)(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001266917.pdf)より筆者が改正点について下線を付して編集・作成
実は、がん医療の進歩は、治療だけにとどまりません。検診に関しても研究が進められており、がん検診の内容も変化しています。
直近では、前述の指針が改正され、2024年2月14日に公表されました。今回見直しされたのは図表2の下線部分です。特に注目すべきは、子宮頸がん検診にヒトパピローマウイルス(HPV)単独法が導入された点でしょう。
これまで、子宮頸がん検診といえば、「20歳以上」に対して「2年に1回」、「問診、視診、子宮頚部の細胞診および内診」が推奨されてきました。
それが、2020年3月公開の「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版」において、HPV検査単独法は、「検診対象:30〜60歳、検診間隔:5年が望ましい」(推奨グレードA:推奨)として罹患率減少効果のエビデンス有りと評価されたことなどを受け、指針も改定されています。
ただし、図表中に「実施体制が整った自治体で選択可能」と注釈が付されているのは、同ガイドラインにおいてHPV検査陽性者に対する長期の追跡を含む精度管理体制の構築ができなければ、細胞診単独法による効果を下回る可能性も指摘されているためです。
そこで、マニュアルなどでは、HPV検査が陽性の場合、残余検体(HPV検査で使用した検体の残り)を用いて直ちに細胞診(トリアージ精検)が行われ、これらに基づいた検診結果が自治体から通知される流れになっています。
さらに、トリアージ精検陰性となった場合、1年後に住民検診の枠組みでHPV検査(追跡精検)を受診するよう自治体から通知されるなど、翌年度も追跡検査が行われます。これが図表中の「罹患リスクが高い者については1年後に受診」の意味です。
したがって、これらの実施体制が整備できない自治体では、現行の細胞診検診も継続されます。ぜひ、皆さんの自治体がどうなっているかHPなどで確認してみてください。
なお、がん検診は、いずれも無症状であることを前提として、がんの可能性を見つけ、精密検査の必要性を判断するものです。すでに何か自覚症状がある人は、検診の通知が届くのを待たず、医療機関で診察を受けることが大切です。
「がん検診」の受診率はどれくらい?
次に、がん検診の受診率の現状について確認してみましょう。
国民生活基礎調査において、過去1年間に「胃がん」「肺がん」「大腸がん」の各がん検診を受診した者の割合を性別に見ると、男女とも「肺がん検診」が最も高く、男性で53.2%、女性で46.4%となっています。
また、過去2年間では「胃がん検診」を受診した割合は男性が53.7%、女性が43.5%となっており、「子宮がん(子宮頸がん)検診」は43.6%、「乳がん検診」は47.4%です。
図表3のグラフを見る限り、「大腸がん」、「肺がん」はやや右肩上がりとはいえ、おおむね受診した者の割合は横ばい状態で、50%に達しているものはまだわずかです。
【図表3】全国の受診率(2013年、2016年、2019年、2022年)
- *出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/screening.html
しかしながら、がん検診の受診率は、2023年3月に閣議決定された「がん対策推進基本計画(令和5年、第4期)」において目標とすべき指標が、第3期までの「50%」から「60%」以上に引き上げられました。
欧米などでは、がん検診の受診率は高く、たとえば、米国での乳がん検診は8割を超えるとも聞きますが、日本はいまだその半分程度です。
内閣府の「がん対策に関する世論調査」によると、がん検診の受診率があがらない理由として、「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」(23.9%)、「費用がかかり経済的にも負担になるから」(23.2%)、「受ける時間がないから」(21.2%)などが挙げられています。
興味深いのは、年齢別や都市規模別によってその理由の上位が変わることです。
たとえば、70歳以上の場合、「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」を挙げた人の割合は47.9%と半数近くを占めています。
また、「費用がかかり経済的にも負担になるから」を挙げた人の割合は30歳代が33.3%、50歳代が30.9%、「受ける時間がないから」を挙げた人の割合は40歳代が44%、50歳代が35.3%と、それぞれ有意に高くなっています。
さらに、都市規模別では、経済的理由を挙げる人が、大都市よりも中都市や小都市が多く、大都市では時間に余裕がないことを理由として挙げる人が多い点も特徴的です。
30歳代は、まだ収入や貯蓄に余裕がない。40歳代・50歳代は、子どもの教育費や住宅ローン返済などがかさむ忙しい働き盛り世代。70歳代は、持病などでかかりつけ医にいつでも相談できる環境にある可能性が高そうです。
がん検診の受診率をあげるためには、ライフプランやライフステージ、地域性に応じた働きかけも重要なのかもしれません。
「がん検診」を受けてがんが発見された人はどれくらい?
おそらく多くの人が、がん検診を受けたほうがよいと思っていても、やはり「がんと診断されるのが怖いから受けたくない」という方も一定数いらっしゃいます。そこで、気になるのは、がん検診を受けた結果、どれくらいの人にがんが見つかるのかという点です。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」では、5大がん検診を受けた人に対して、精密検査が必要と判断された人、その結果がんが見つかった人の割合を調査しています(図表4参照)。
これによると、がん検診を受けた人のうち、①要精密検査になった人、②最終的にがんと診断を受けた人は、たとえば、男女あわせた罹患者が最も多い「大腸がん」は①約17人に1人、②約637人に1人。女性で罹患者が最も多い「乳がん」は、①約16人に1人、②約325人に1人です。
また、ご相談者の娘さんが受診する子宮頸がん検診は、①約41人に1人、②約3,847人に1人ですから、大腸がん、乳がんに比べると、精密検査が必要と判断された人やがん診断を受けた人は少ないようです。
さらに、図表4のデータで気になる点がもう1つあります。
それは、要精検者が実際に精密検査を受けたかどうかを測る「精密検査受診率」です。この指標は、数値が高いほうが望ましく、本来は100%であるべきです。しかし、最も高い乳がんでも89.8%、最も低い大腸がんは70.2%と、約3割の対象者が精密検査を受けていません。
精検受診率が低いということは、検診で早期発見ができたはずのがんを発見できず、せっかく受けた検診の効果がなくなってしまいます。
また、精検結果の把握率が低いと、精検を受診したかどうか把握できず、精検受診率も低くなりがちです。
第4期の基本計画では、精密検査受診率の目標を90%に掲げており、子宮頸がん、乳がん、胃がん、肺がん、大腸がん検診の精密検査未受診者に対して、郵送や電話などによる個別の受診再勧奨を行うとしています。
また、最近のがん保険や特定疾病保険などの中には、所定の検診や精密検査を受けた場合、給付金が受け取れる特約が付加できる商品も増えてきました。
これらの保障が、がん検診や精密検査の受診率へのインセンティブにつながるのか、FPとして注視したいところです。
【図表4】
- *出典:「令和3年度地域保健・健康増進事業報告の概況」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/21/dl/R03gaikyo.pdf)
「がん検診」のメリットはがんを早期で発見できること
がん検診に限らず、検査を受ける際には、メリットとデメリットを把握しておくことも重要です。
まず、メリットについてですが、基本的に、がんを早期に発見し、適切な治療を行うことができれば、がんによる死亡の減少につながります。がん死亡率の減少こそが、がん検診の目的ですから、最大のメリットは、自覚症状のない段階でがんを見つけられ、救命につながるという点です。
そして、身体への負担が軽減されるだけでなく、家計への影響を抑えられるのもメリットでしょう。一般的に、早期がんは進行がんに比べ、医療費負担も軽くて済みますし、再発リスクも低くなります。治療前の生活に戻ることや職場復帰も早まるため、収入への影響も小さくなる可能性が高いのです。
<参考>
*ステージ(病期)と治療費の関係については、第12話「がんのステージ(病期)で治療費はどう変わるのか?」をご参照ください。
このほか、がん検診は、ポリープや潰瘍など、がんになる前の病変の発見にも役立ちます。定期的にエビデンスのあるがん検診を受けることで、安心して生活を送ることができる点もメリットの一つでしょう。
以前、ご相談を受けたA子さんは、祖母、母、叔母など、近親者がすべて乳がんで亡くなっています。自分もいずれ、乳がんになると覚悟しており、若いころからがん保険に加入し、がん検診を受けてきたそうです。
そんなA子さんも40代半ばで乳がん告知を受けました。ただし、がん検診だけでなく、日ごろから乳房の触診を習慣付けていたため、主治医にびっくりされるほど早期で見つかり、乳房を全摘することもなく、入院期間や治療期間も短かったといいます。
A子さんいわく、「がんと診断されて、本当にほっとしました。これで、いつがん宣告を受けるかビクビクせずに済みますから。もちろん、年齢的に、乳がん以外のがんも心配ですけれど、早期で見つけてしっかり治療することが大事なのは承知のうえです。母の遺言で『がん保険にはしっかり入っておけ』といわれたとおりにして良かったです。早期だったこともありますが、給付金で治療費を十分まかなえましたし、安心して治療に専念できたと思います。」とのことでした。
私は、A子さんのように、がん告知を受けて安心したという患者さんもいることに、たいそう驚いたものですが、お話を聞いて、深く納得したのをよく覚えています。
「がん検診」はデメリットもきちんと理解することが重要
一方、がん検診にもデメリットはあります。
それは、検診の判定結果が100%正しいとは限らないという点です。
がんが疑われて精密検査を受けても、見つからない場合(偽陽性)や、異常なしと判定され、がんを見逃してしまう場合(偽陰性)は十分あります。
きちんとがん検診を受けていたにもかかわらず、突然、がんが進行した状態で見つかったという患者さんの話は珍しいものではありません。
そうならないためには、信頼の置ける医療機関でエビデンスのあるがん検診を定期的に受けることが重要です。
また、がん検診を受けない理由にも挙げられているように、検査によって経済的な負担がかかることもデメリットの一つでしょう。
さらに、お金以外に、身体的・精神的な負担もあります。検診や精密検査に伴って起きる合併症などの医療トラブルのことを偶発症といいます。がん検診においては、大腸がんや胃がんの内視鏡検査中に出血するなどのトラブルや、バリウム検査での誤嚥、腸閉塞、放射線被ばくなども偶発症の一つです。
それに、がんが見つかるきっかけが、がん検診だけとは限りません。
国立がん研究センターがん情報サービスの「院内がん登録全国集計」によると、2022(令和4)年にがん検診や健康診断などによって、がんが発見された人は、がん患者の15.0%です(図表5参照)。
それよりも、ほかの疾患で経過観察中に受けた検査によって発見されたり、何らかの自覚症状や体調不良で受診したことがきっかけで見つかったりしたケースが多数を占めています。
この点は、東京都の患者調査にも顕著に表れています(図表6参照)。
この調査結果から、自治体や勤務先、任意で受けた人間ドックなどよりも、痛み、吐き気、下血といった症状が出たことが、がんを見つけたきっかけだったという人が、特に40歳代以下など若い世代で4割以上を占めているのです。
ですから、がんを早期で発見するためには、がん検診だけに頼るのではなく、自分自身の健康や体調の変化にも留意し、気になる症状が出た場合は、すぐに受診することが大切です。
【図表5】院内がん登録全国集計におけるがんの発見経緯
- ・がん検診健診等:がん検診や健康診断等の結果により医療機関を受診した場合
- ・他疾患経過観察:他の疾患で経過観察中に検査等で発見された場合
- ・剖検発見:死体解剖で初めて診断された場合
- ・その他:上記に当てはまらない場合
- *出典:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録全国集計」集計結果を用いて筆者作成
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_registry.html
【図表6】
- *出典:東京都福祉保健局「東京都がん対策推進計画に係る患者・家族調査報告書(第2章―患者調査)(令和5年3月)」
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/research/taisaku/suisin_keikaku/tyousahoukoku.files/tousa-2-kanjya.pdf
「前立腺がん」が増えているのはがん検診が普及した結果!?
そもそも、指針で定められているがん検診の対象は5つのみ。それ以外のがんはほかの検査などで見つけるか、気になる症状が出てから受診するしかありません。
5大がんは、患者さんも多いとはいえ、最新データ(2020年)によると、男性の罹患数が最も多いのは「前立腺がん」です。今後も増加傾向にあると予想されています。
前立腺がんは、乳がんなどと同じくホルモン系の男性特有のがんで、65歳以上の男性に多く見られます。
患者が急増した理由は、乳がんや大腸がんと同じく食生活の欧米化もありますが、最も関連があるのは「PSA検査」の普及といわれています。
PSA(前立腺特異抗原)とは、前立腺で分泌されるタンパク質のことです。がんが前立腺にできると、血液中のPSAの数値が上昇するため、早期発見のスクリーニングとして測定される検査法です。
この検査は、1990年代に急速に普及し、前立腺がんの診断数が急激に増加しました。つまり、前立腺がんに罹患する患者さんが増えたというよりも、検査によって見つかる患者さんが増えたともいえるのです。
ここで指摘されているのが、がん検診のデメリットの一つでもある「過剰診断」です。
これは、検診などによって、生命を脅かさないがんを発見してしまうことを指します。
一般的に、前立腺がんは進行が緩やかで、自然に消えてしまうこともあるそうです。実際に、私のご相談者の中にも、前立腺がんと診断されたけれども、定期的にPSA検査と前立腺生検を行うだけの「経過観察療法」をしている高齢男性が少なからずいらっしゃいます。
このような患者さんは、治療をせずとも生命に影響を及ぼさないにしても、がんが見つかったという精神的ストレスを抱えながら、がんとともに生きていかねばなりません。
前立腺がんに限らず、早期で発見されたがん患者さんの中には、抗がん剤治療など「治療をしない」選択肢を不安に感じる方もいるのです。
ちなみに、罹患数が多いにもかかわらず、厚生労働省は、前立腺がんに対するPSA検査を推奨していません。その一方、日本泌尿器科学会は、PSA検査の普及に注力する方針を掲げており、意見が分かれています。
PSA検査に関しては、通常、人間ドッグのオプションで受けたり、自治体などの検診で受けたりする人が多いと思いますが、メリットとデメリットを十分理解したうえで、個人の選択に委ねられているのが現状といえます。
「がん検診」を受ける前に民間保険など備えのメンテナンスも必要
これまで見てきたように、がん検診の最終的な目的は、がんによる死亡を減らすことです。そして、エビデンスのあるがん検診というのは、検査を受けることで、そのがんで亡くなる人が減るからこそ、国も推奨しているわけです。
逆にいうと、エビデンスがない=検診を受けても、死亡率は変わらないということです。
とりわけ、高齢者は若年者と比べ、がん検診の不利益が利益を上回る可能性があるといわれています。
高齢になればがんに罹患する人も増えるわけですから、意外に感じられるかもしれませんが、多くの先進国では、がん検診の対象年齢に上限が設けられています。
日本でも、住民検診においては、対象者全員の受診機会が用意されたうえで、特に受診を推奨する者を「69歳以下」としています。
もちろん、高齢期ほどがんリスクが高まる年代ですし、現役世代と同じような治療を行う患者さんもたくさんいます。しかし、がんが心配だからといって、ただやみくもに検査を受けるのではなく、ちゃんとリスクとベネフィットのバランスを考えるべきです。
とりわけ最近では、唾液や尿、血液などで簡単にがんリスクが調べられる「がんリスク検査」も広まりつつあります。
検診の結果、医療保険やがん保険に加入あるいは見直ししようと思っていたのに、難しくなったorできなくなったということにならないよう、受ける前に、メリット・デメリットや、エビデンスについてしっかりと理解しておくこと。ご自身がご契約している保険がメンテンナンスされているか確認することが大切です。
<参考>
*がんリスク検査等については、第11話「検査する前に知っておきたいがん検診とがん保険の関係」をご参照ください。
<参考>
・国立がん研究センターがん情報サービス「がん検診」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/index.html
・国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
・厚生労働省「がん検診」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html
・厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/19331/20230623sisinnzenbun.pdf
・厚生労働省・がん検診のあり方に関する検討会「がん検診事業のあり方について」(令和6年7月)
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001115628.pdf
・令和5年度 厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業) 「子宮頸がん検診におけるHPV検査導入に向けた実際の運用と課題の検討のための研究」研究班
「対策型検診における HPV検査単独法による子宮頸がん検診マニュアル」
https://www.jsog.or.jp/news/pdf/20240222_HPV.pdf
・厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
・厚生労働省「令和3年度地域保健・健康増進事業報告の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/21/dl/kekka2.pdf
・厚生労働省「第4期がん対策推進基本計画について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/001127422.pdf
・内閣府「がん対策に関する世論調査(令和5年7月調査)」
https://survey.gov-online.go.jp/r05/r05-gantaisaku/gairyaku.pdf
・日本泌尿器科学会「前立腺がん検診について」
https://www.urol.or.jp/public/pca/psa-exam.html
・東京都福祉保健局「東京都がん対策推進計画に係る患者・家族調査報告書(令和5年3月)」
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/research/taisaku/suisin_keikaku/tyousahoukoku.html
執筆年月日:2024年11月22日
執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
一般社団法人患者家計サポート協会顧問
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格
執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格
富山県出身。立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、SEとしてシステム開発に携わる。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、セミナー・FP講座などの講師、書籍や雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力している。近著に[がん患者(サバイバー)が教えてくれた本当のところ がんとお金の真実(リアル)](セールス手帖社保険FPS研究所)、[お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動](日経BP)など。
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2022年4月20日(水)
夫は会社員、私はパートで働いています。二人とも40代前半ですが、結婚が遅かったため、子どもはまだ5歳で、これから教育費もかかりますし、マイホームも購入するつもりです。・・・>続きを読む
【第14話】男女別がん保険の考え方(男性編)
2022年5月10日(火)
50代前半のフリーランスです。以前は会社員でしたが、約10年前に独立し、Web制作などを行っています。妻は4歳年下で、正社員として勤務していましたが、昨年、乳がんと診断を受け、現在も治療を続けています。・・・>続きを読む
【第15話】AYA世代とは?AYA世代とがん保険
2022年8月9日(火)
30代の独身女性です。2年前に乳がんと診断されました。ステージはT期で、早期発見できたのはよかったのですが、まだホルモン治療中で10年間治療をする予定です。・・・>続きを読む
【第16話】がん保険に「患者申出療養」への備えは必要か?
2022年11月1日(火)
50代男性です。これまでがん検診などでは異常を指摘されたことはありませんが、妻が乳がんになったことをきっかけに3年前からがん保険に加入。がん診断一時金や抗がん剤治療など通院治療に対する給付金も支払われます。・・・>続きを読む
【第17話】がん保険に加入しても保険金が受け取れない!?90日の「待機期間(待ち期間)」とは?
2022年12月22日(木)
先月、がん保険に加入したばかりです。加入した時はまったく体調に問題はなかったのですが、最近、胸にしこりがあるような気がしてなりません。現在43歳で、自治体のがん検診は定期的に受けています。・・・>続きを読む
【第18話】リスク高まる60代以降の高齢者に「がん保険」は必要か?
2023年3月14日(火)
先月、子宮頸がんと診断された20代の会社員です。医療保険には入っており、入院や手術の給付金を受け取りましたが、診断一時金や通院保障などはなく、やっぱり、がん保険も入っておけば…と後悔しています。・・・>続きを読む
【第19話】本当にがん保険は不要?がん治療の「経済毒性」とがん保険の役割
2023年5月18日(木)
10年前から御社の「SBI損保のがん保険」に加入しています。保険料が割安で自由診療も含めて幅広く補償が受けられる点に魅力を感じて契約しました。ただ、50代も半ばになり、保険を見直して、老後に備えて貯蓄や資産運用に回したほうがよいのではと悩んでいます。・・・>続きを読む
【第20話】がん患者のアピアランスケアとがん保険
2023年9月21日(木)
先日、美容院に行った際、「ヘアドネーション」のチラシを目にしました。小児がんや先天性の脱毛症、不慮の事故などで、頭髪を失ったお子さんのために寄付された髪の毛でウィッグを作り、無償で提供する活動だそうです。このような取り組みがあることを初めて知りました。・・・>続きを読む
【第21話】がん遺伝子パネル検査とがん保険
2023年12月12日(火)
50代男性です。先日、会社の同期が肺がんと診断されました。ステージWでほかの臓器に転移している状態のため、薬物療法を受けるそうです。でも、まだ体力がある間に、がん遺伝子パネル検査を受けようか悩んでいると言っていました。・・・>続きを読む
【第22話】〜子宮頸がんとがん保険〜子宮頚部の異形成と診断!がん保険には加入できる?
2024年3月19日(火)
20代独身の会社員です。先日受けた子宮頸がん検診で要精密検査の通知が届き、婦人科で検査を受けたところ、「中等度異形成」と診断されました。医師からは、がんではないと言われています。・・・>続きを読む
【第23話】知っておきたいがん保険の「付帯サービス」の活用法
2024年6月14日(金)
最近、保険会社の付帯サービスが目に付くようになりました。いろいろなものがあるようですが、付帯サービスは、すべて無料で受けられるのでしょうか。また、どうして保険会社では付帯サービスを提供するのでしょうか。・・・>続きを読む
【第24話】資産形成とがん保険
2024年7月31日(水)
SBI損保のがん保険(自由診療タイプ)に加入している40代独身(男性)の会社員です。今度、5年間ごとの更新時期を迎え、保険料があがってしまいます。数年前から、将来のためにNISAで積立投資も始め、・・・>続きを読む
【第25話】がん検診でがんが見つかる人はどれくらい?〜がん検診のメリットとデメリット〜
2024年11月22日(金)
今年20歳になる大学生の娘に自治体から子宮頸がん検診の案内が届きました。近年、子宮頸がんは若年化が進んでいるそうですし、もちろん検診は受けさせるつもりです。ただ、がん検診でがんが見つかる人はどれくらいいるのでしょうか?・・・>続きを読む
2024年11月 24-0368-12-001