がんにかかった今だから言えること 「がん」と「お金」と「がん保険」
がんにかかった今だから言えること 「がん」と「お金」と「がん保険」

検査する前に知っておきたいがん検診とがん保険の関係

相談者

相談者:先日、ネットでタレントさんが、尿で簡単にがんかどうかが分かる検査を受けたというニュースを見ました。まだ30代ですが、父が数年前にがんで亡くなっていますし、結婚して子どももいます。でも、コロナ禍でがん検診にはなかなか行きにくい。自宅でできるなら検査してみようかなと思っていますが、検査で陽性になった場合、がん保険には加入できないのでしょうか?

黒田FP:近年、唾液や尿、血液などによるがんのリスクの検査の研究が進み、実用化され、医療機関や自治体で受けられています。これらは、簡単で安価、身体への負担も軽く、精度も高いという優れた特徴を持つ検査ですが、あくまでもがんのリスクをはかるチェックの役割を果たすもの。それだけでがんと診断できるものではありません。がんをしっかりと確認するには、CTやMRIなどの従来の検査を行う必要があります。また、がん保険に限らず保険に加入する場合、現在の健康状態を告知しなければなりません。その際、健康診断やがん検診、人間ドッグなどで「要経過観察・要再検査・要精密検査」になった場合の結果も告知内容に含まれています。がんリスク検査も対象となるかは、保険会社等によって異なりますが検査項目や検査結果(数値)によっては、加入が難しくなるケースもあります。

尿1滴で全身のがんリスクを網羅的に調べられる「N-NOSE」とは?

がん医療において、進歩したのは治療法ばかりではありません。検査についてもさまざまな方法が研究・開発され、実用化されています。
なかでも、まだがんに罹患していない人にとって関心が高いのは、がんを発見するための検査ではないでしょうか?
がんは「早期発見」と「適切な治療」が肝心。ですから、いかに早く、正確にがんを見つけられるかは、身体的にも経済的にも非常に重要なことです。

そこで、最近メディアなどでも紹介されている最新の検査方法を2つご紹介しましょう。
1つは、尿1滴から全身のがんリスクを判定できる株式会社HIROTSUバイオサイエンスの「N-NOSE(エヌノーズ)」です。
これは、尿に含まれる「がんの匂い」を、嗅覚の優れた線虫が嗅ぎ分ける性質を利用した生物診断検査です。
2021年2月から、福岡県と東京23区で実施されていましたが、順次エリアを拡大し、7月から全国で検査を受けられるようになっています。(2021年11月時点)

検査を受けるには、まず、同社のサイトから検査キットを購入(12,500円)。尿を採取して冷凍した検体を自宅まで受け取りにきてもらうか(集荷2,200円、北海道・沖縄2,750円)、全国8か所(東京・名古屋・大阪など)の受付拠点に持ち込むか、いずれかの方法があります。また、N-NOSEを取り扱っている医療機関での受検も可能です。
検査結果は約6週間後で、胃がん、大腸がん、肺がんなどの5大がんをはじめ、サイレントキラーと呼ばれ、発見・診断が難しい膵臓がんや卵巣がんなど15種類(2019年9月現在)のがんのリスクが1回の検査で網羅的に分かります。
気になるのはその精度でしょう。同社によると、がん患者をがんと判定する「感度」は86.3%。健常者をがんではないと判定する「特異度」は90.8%となっています[日本がん予防学会(2019年6月)、日本人間ドック学会(2019年7月)]

*金額はいずれも税込み(2021年11月時点)

わずか0.1ccの唾液で検査できる「サリバチェッカーR」とは?

もう一つは、唾液でがん罹患リスクがわかる株式会社サリバテック「サリバチェッカーR」です。
こちらは、唾液中の代謝物濃度を高精度に分析し、がん罹患時に異常値を示す物質の濃度をAI等で解析することで、現在のがん罹患リスクを評価するという検査法です。
すでに2017年1月から開始されており、同社によると、1300以上の医療機関と300の企業・団体や健康保険組合で導入されているといいます。(2021年11月時点)
医療機関で検査を受ける以外に、専用の検査キットを購入(29,700円)し、冷凍便で返送後、1ヵ月後に医療施設を介して検査結果を受け取る方法もあります。

判定できるのは、膵臓がん、肺がん、大腸がん、乳がん(女性のみ)、口腔がんと、前掲のN-NOSEに比べて限定されていましたが、2021年9月から罹患率の高い胃がんが追加。今後も対象となるがん種を広げていく予定とのことです。
精度はがん種によって異なり、口腔がんの場合、特異性が99.0%、感度が71.8%、大腸がんの場合、特異性が98.9%、感度が71.0%、膵がんの場合、特異性が95.1%、感度が71.2%となっています。

このほかにも、総合電機メーカーの東芝が、血液中に存在するリボ核酸(RNA)の一種「マイクロRNA」から、がんの可能性を調べる技術の実用化を進めています。
なんと、わずか1滴の血液があれば、2時間で胃がんなど13種類のがんに罹患しているかどうか、ステージ0期の超早期でも検知できるということです。
同じ血液によるがんの検査といえば、「腫瘍マーカー検査」が良く知られていますが、こちらは、がんが体内にあっても初期の段階で異常値になることはほとんどありません。ですから、早期発見というよりも、進行・再発がんに対する治療効果の判定やがんの術後発見のための検査という位置づけです。

*金額はいずれも税込み

「がんリスク検査」はがんを確定するものではない

このような最新の検査法に共通しているのは、身体への影響や負担(侵襲)が少ないこと、安価であること、精度が高いこと、手軽であることなどが挙げられます。
そして、これらが注目を集める背景には、長引くコロナ禍による影響もあるようです。
緊急事態宣言による外出自粛で、健康診断やがん検診を受診しにくい、したくないといった方が増え、がん検診の受検率は低下傾向にあります。

厚生労働省の有識者検討会で発表された研究班の調査(※1)によると、2020年度のがん検診受診者数は、2019年度と比べ約2割〜0割減。とくに、職域検診に比べて、住民検診の減少が大きくなっているのが特徴です。

2021年前半のがん検診の動向を調査している日本対がん協会でも、「受診者数は回復傾向にあるものの、コロナ前の水準には戻っていない状況」とみています。一方、前掲の「サリバチェッカーR」を提供している株式会社サリバテックよると、自宅で同検査を受診した方が今年度は昨年対800%も増加したというから驚きです。

「がん検診に行かない代わりに、自宅で手軽にがん検査を受ければ良いのでは」といった考え方やお気持ちは、よく分かります。
しかし、ここで知っておきたいのは、これらは、あくまでも、がん罹患のリスクをチェックするための検査だということ。リスクが高いと評価されたとしても、現在がんに罹患していることを確定するものではなく、逆に、リスクが低いと評価されたとしても、がんに罹患していないことを保証するものではありません。
検査結果には、「高リスクと評価された場合は、医師に相談の上、精密検査をご検討ください」という内容が明記されています。
つまり、がんの有無や状態をしっかり確定させるためには、改めて、CTやMRIなどの画像診断などを受けなければならないことを十分ご理解ください。
ただ、がんのリスクの有無を振り分け、余分な検査を受けなくて済むというメリットは大きいと思います。通常のがん検診などと組み合わせて、がんの早期発見の精度を高めるのも一手でしょう。

※1:厚生労働省「第33回がん検診のあり方に関する検討会(資料)」/国立がん研究センター 高橋宏和
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000816493.pdf

「がんリスク検査」で陽性でも「がん保険」に加入できる?

一方で、今回のご相談のケースのように、何らかの検査で「陽性」あるいは「要精密検査」の結果が出た場合、がん保険に加入できるか?というお問い合わせは多くいただきます。
なかには、「診断確定する前に加入したいので、どんな保険でもいいから、とにかく早く契約したい!」などとおっしゃる方もいらっしゃいます。


結論としては、まずは、きちんと精密検査を受け、その結果によって、加入できるかどうかが決まると言えます。

基本的に、保険に加入する場合、現在の健康状態を告知する義務があります。告知範囲や内容は保険会社の商品によって異なりますが、以下は、A社のがん保険の告知内容です。

  • 被保険者の生年月日
  • 被保険者の性別
  • がん・悪性腫瘍・悪性新生物の罹患歴
  • 過去5年のがんと関連のある疾病罹患歴
  • 過去2年の健康診断等の検査結果
  • 過去3か月の身体の変調

上記⑤に健康診断等の検査結果とあるとおり、健康診断やがん検診、人間ドッグで「要経過観察・要再検査・要精密検査・要治療」といった指摘があった場合、一般的に、その内容や検査結果の数値などを記入しなければなりません。現時点では、がんリスク検査のように、医師が介在しないセルフチェックは対象外とする保険会社や商品がほとんどですが、がん保険の告知書に、「その他のがん検査」による異常指摘も告知対象としている場合もあります。検査項目、検査結果(数値)によっては、加入が難しくなる場合もあるでしょう。
しかし、精密検査の結果「異常なし」の場合、「再検査の結果が異常なしであれば告知は不要」とする保険会社もあり、結果によって、まったく加入できないとは言い切れません。
医療の進歩は、保険の診査にも関わっており、以前は引受不可だったのに、現在は引き受けできるようになったケースなどもあるからです。

検診や検査を受ける前にはがん保障が準備できているかを確認!

それよりも、筆者としては、保険に加入したいがために、正しく告知をせず、告知義務違反が発覚した時に保険会社から契約を解除される可能性があったり、精密検査を受けなかったりするデメリットの方が大きいとお伝えしています。
とくに精密検査を受けないということは、がん発見や治療の遅れにつながります。
今回ご紹介したようながんリスク検査は医療行為ではありません。ご自身で罹患リスクを調べて、高リスクであれば、精密検査をうける前にがん保険に加入しようと思われる方もゼロではないと思います(いわゆる保険の逆選択)。
しかし、がんの疑いがある状態を何か月も続けるというのは、非常なストレスを伴うものです。

以前、がんの診断確定前に「万が一がんだった時に備えておきたい」とご相談にお越しになったシングルマザーの方がいらっしゃいました。彼女は、たまたま受けた人間ドックで乳がんの疑いありと診断されたのです。これまでは健康体そのものでどこにも痛みや異常を感じなかったのに、「乳がんかどうか調べるために精密検査をしましょう」と言われただけで、頭痛や胸・わきの下の痛み、不眠などを感じるようになったそうです。
個人差はありますが、それだけ「がん」というのは心身に負荷がかかるものなのです。

また、現在、保険会社と医療機関の間で、契約内容や医療情報等のセンシティブデータを、安全性を担保した上で連携できるしくみの導入が検討されています。これが実現できれば、契約者が医療機関に診断書の作成を依頼する時間や費用負担が軽減され、保険金請求から支払いまでの利便性が向上するでしょうし、安易に通院歴などを隠蔽できなくなるのではと思います。

これらを踏まえた上で、がんリスク検査やがん検診を受けるのであれば、それぞれのメリット・デメリットをきちんと確認すること。とりわけ、対象となるがん種や検査の精度、過剰診断の可能性、「疑いがある」と言われたことによる心理的な影響といったデメリットにも目を向けるべきです。
そして、受診前には、ちゃんと自分のニーズにあったがん保障が確保できているか確認しておくことをお勧めします。

<参考>

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)

執筆監修 黒田 尚子(くろだ なおこ)

CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談資格、第2種情報処理技術者資格
初級システムアドミニストレータ員資格

富山県出身。立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、SEとしてシステム開発に携わる。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、セミナー・FP講座などの講師、書籍や雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力している。

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