代表的ながんの1つに胃がんがあります。胃がんは胃の粘膜にがん細胞が生じることでできるがんであり、初期症状がほとんどないことが特徴です。今回は、胃がんの特徴や原因、治療方法や予防法について解説します。
初期症状がほとんどない胃がん
胃がんの場合、初期症状はほとんどありません。胃の壁は表面が粘膜になっており、その下層に筋肉が広がっています。一般的にがんの進行度は、ステージ別に分類され、ステージは「T」から「W」までとなっています。胃がんのステージTは、がんが筋肉の層に止まっているものを指しますが、その中でも早期胃がんはがんが粘膜にとどまり、筋肉に達していないものをいいます。
胃がんでは、胃の痛みや食欲不振、体重減少などの症状が生じますが、初期の胃がんは粘膜にとどまった状態であるため、このような症状がないことが多く、発見されるきっかけは健康診断であることが多くなっています。
ただし初期のがんでも、がんが胃の出口の部分などにできた場合には、胃の不快感を自覚するケースもあります。胃が重苦しく、胸焼けなどが続くときは、病院を受診して適切な検査や治療を受けるようにしましょう。
胃がんの特徴
胃がんはまず胃の粘膜からできて、筋層を浸潤するように成長するがんです。進行速度によって、進行が緩やかな「分化型」と、進行が急速な「未分化型」に分けられます。粘膜にできたがんは、より深くにある筋層を浸潤するように成長し、やがて胃の外部に顔を出します。
顔を出したがんは、周辺の臓器などにも浸潤し、血管やリンパ管の中を流れて、リンパ節や胃から離れた部分にある臓器に転移します。
また、内臓を覆っている腹膜に転移した場合には、がん性腹膜炎を生じて腹水の貯留などさまざまな全身症状が引き起こされます。
胃がんのステージ分類は以下のとおりです。
- ステージT:粘膜から筋層にまでがんが浸潤している状態
- ステージU:胃の外部に顔を出している状態
- ステージV:外部に出たがんが周辺の臓器に浸潤している状態
- ステージW:肝臓や肺、腹膜などに遠隔転移している状態
これらのステージ分類は、治療方針を決めるうえで非常に重要です。5年生存率はステージTでは90%を越えていますが、ステージWでは10%未満になります。人口10万人のうち何人が発症したかを表す罹患率を見ると、胃がんは50代以降で上昇する傾向にあり、男性のほうがなりやすいといわれています。早期発見のためにも健康診断はきちんと受けるようにしましょう。
- [出典]
- ・「胃がん 基礎知識」(国立がん研究センターがん情報サービス)(https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/print.html)
- ・「がん登録・統計 グラフデータベース」(国立がん研究センターがん情報サービス)(http://gdb.ganjoho.jp/graph_db/gdb1?smTypes=5)
胃がんの原因とは
胃がんには、いくつかの原因があることが知られています。特に日本人に多いとされているのは「ヘリコバクターピロリ菌感染」によるもので、ヘリコバクターピロリ菌(以下「ピロリ菌」といいます)が産生するたんぱく質に、がん化作用があると考えられています。中高年に感染者が多く、若者には少ない傾向にあります。
また、塩分を摂りすぎると、胃の粘膜に負担がかかります。胃炎を引き起こすだけでなく、胃内の酸性度が低下するため、ピロリ菌の生育に適した環境となって感染・増殖しやすくなることが知られているので注意が必要です。
さらに、最近の研究では野菜や果物不足は胃がんのリスクを上げることも指摘されており、食生活の乱れは、胃がんの原因になると考えられています。このほか、喫煙や過度な飲酒が胃の粘膜を傷つけるなど、長年の悪習慣が続くと、胃がんの原因になることもあります。
胃がん発症と進行の予防
胃がんは、ピロリ菌の感染や、食事をはじめとした生活習慣が発症に関与しているといわれています。このため、胃がんの予防には、ピロリ菌の除菌治療と生活習慣の改善が必要です。ピロリ菌は、感染していたとしても抗生物質などの薬を一週間服用すれば除菌することが可能です。感染していることがわかった場合には、早めに除菌治療を受けましょう。
また、胃がんは初期であればあるほど治療が行いやすく、生存率も高くなります。このため、早期にはほとんど自覚症状がない胃がんでは、健診による早期発見が重要です。一般的に健診ではバリウム検査や内視鏡検査が行われ、胃の中の病変をチェックします。
最近では血液検査でCEAやCA19-9などの腫瘍マーカーを調べることもありますが、腫瘍マーカーは、ほかの良性疾患でも上昇することがあり、正確な診断を行うためには内視鏡検査が必要です。
胃がんの治療
胃がんは、進行度を表すステージによって治療法が大きく異なります。ステージTのうち、がんが粘膜に限られているものであれば、内視鏡で取り除くことが可能です。また、ステージU、Vでは手術によるがんの切除が行われますが、がんの広がりによっては術後に抗がん剤治療を行う場合もあります。
ステージWになると基本的には手術を行うことはできません。抗がん剤治療や放射線治療などの化学療法が行われ、がんが縮小した場合には、手術による切除を試みるケースもあります。しかし、肝臓や肺などに広範囲な転移がある場合には、主に痛みを取るための緩和ケアが治療の主体となります。
がん治療の最先端 先進医療
胃がんにはいくつかの先進医療が認められています。
固形がんに有効な陽子線治療や重粒子線治療は、多くの胃がん患者が受けている先進医療の1つです。また、肝臓や肺への転移に対して、樹状細胞や腫瘍抗原ペプチドを用いたワクチン接種が行われることがあります。これらには、自分のがんに対するワクチンを生成して接種することで、がんの増殖を抑えるという効果があります。
さらに、胸水や腹水がある進行がんに対しては、がんを縮小させる効果がある種類のリンパ球を注入する活性化自己リンパ球の移入療法も広く行われるようになりました。このほかにも、術前に抗がん剤を腹腔内に直接注入して腫瘍を縮小化する治療などさまざまな先進医療が行われています。
これらの先進医療は保険適用とはなりませんが、臨床研究から高い効果が期待されるもので、今後の発展と普及が期待されています。このように、現在では、従来の治療法だけでなくさまざまな先進医療を組み合わせて行うことで、がんを克服する可能性が広がっているのです。
まとめ
胃がんは進行度によって症状や治療法、生存率が大きく異なります。しかし、進行がんでも先進医療を含めた積極的な治療を行うことで、がんを克服できる可能性は高まっています。もし胃がんになってしまったら、主治医や家族とよく話し合い、ご自分にとって最適な治療が受けられるようにしたいものですね。
執筆年月:2018年6月
執筆:医師・成田亜希子
国立大学医学部を卒業後、一般内科医として勤務。育児の傍ら、公衆衛生分野にも従事し、国立医療科学院での研修を積む。感染症や医療問題にも精通している。
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