火災による被害は、近隣の家で起こった火災が自分の家まで延焼することもあれば、自宅が火元となり近隣に損害を与えてしまうこともあります。今回は、そうした延焼・類焼の場合に火災保険がどのように補償してくれるのかを解説していきます。
延焼・類焼とは
皆さんは「延焼」と「類焼」の違いをご存じでしょうか?
「延焼」とは“火事が火元からほかの建物などへ燃え広がること”、「類焼」とは“ほかから燃え移った火によって焼けること”(もらい火)をいうようです。
つまり、基本的には「火が燃え移る」ことを言っているのですが、「延焼」はその“状況や状態”、「類焼」はその“事実”を伝える文言として主に使われているようです。また、「延焼」には延焼罪という刑罰がありますから、「延焼」は加害者側からの視点で、「類焼」は被害者側からの視点で表現しているとも言えるでしょう。
いずれにしろ、火事が発生した場合、どれだけ気を付けていたとしても、延焼・類焼による被害を防ぐことは至難の業です。
延焼による被害を受けた場合
隣家からの延焼で自宅が被害を受けた際、隣家に損害賠償請求はできません。
これは「失火責任法」(失火法)という法律により、故意や重過失でない限り、火元は法律上損害賠償責任を負わないことになっているからです。つまり、延焼で損害を受けても火元から補償してもらうことはできません。
これには、失火責任法ができた背景が影響しています。失火責任法が作られたのは明治時代です。当時は、街に木造家屋が密集し、一度火事が起きると、大きな災害になりやすい環境でした。火事で自宅を失った火元に更に延焼の責任=損害賠償責任を負わせるのは、個人の賠償能力を大きく超え、酷だという事情があったようです。
そして、現在でもこの「失火責任法」は有効です。ですから、特に木造家屋の割合を考えても、延焼による被害を受けても火元から補償を受けられない状況ですから、自己防衛のためにも火災保険への加入はすべきでしょう。
損害賠償請求ができるケースもある
もちろん、火元に故意や重過失があった場合は失火責任法の適用外となりますから、損害賠償請求ができます。
たとえば、過去の例で重過失となったケースを挙げると、「天ぷらを揚げたまま台所を離れた」とか「寝たばこをした」ケースがあります。
また、重過失と認められなかったケースには「仏壇のロウソクが倒れて失火した」ケースや「コンセントにたまったホコリに引火した」いわゆる“トラッキング現象”により生じた火事があります。
いずれにしろ、重過失の判断は、個別の状況により判断されます。確定的なことは言えないので、重過失だと認められないことを前提に対処しておく必要があるでしょう。また、故意や重過失と認められて賠償請求ができたとしても、通常は相手方に十分な資力がないため、きちんと賠償してもらえないことも多くあります。
もちろん、火元が個人賠償責任保険に入っていたり、損害賠償の支払いに同意をしたりすれば、失火責任法の対象であるケースでも賠償金を受け取れることがあります。
ただし、賠償金を受け取るまでにかなりの時間を必要としたり、手続きなどが煩雑になったりするケースもあります。
精神的にも経済的にも安心するためにも、自分が被害者になった場合でも自分自身の契約している火災保険から、保険金の支払いを受けられるようにしておくことが大事だと感じます。
自分が火元の場合
自分が火元になってしまった場合も、重過失や故意がない場合は失火責任法が適用され、隣家に延焼しても損害を補償する義務はありません。
しかし、自分が火元になっておいて何もしないではいられないというのも心情です。いわゆる道義的な責任を感じるのは人として当然でしょう。
そうした場合、火災保険に「失火見舞費用保険金」や「類焼損害補償特約」を付帯していれば、類焼させてしまった隣家へ多少の償いもできます。
「失火見舞費用保険金」と「類焼損害補償特約」とは?
ところで、この「失火見舞費用保険金」と「類焼損害補償特約」の違いは何でしょう?また、どのような選び方をすればよいでしょうか?
「失火見舞費用保険金」とは、自分自身が出した火事により隣家(建物や家財)に被害を与えてしまった場合、“見舞金”などを支払うための保険金です。おおよその保険金額は、1世帯当たり30万円(保険金額の30%が限度)となります。
「類焼損害補償特約」とは、類焼先の隣家が火災保険に未加入だったり、加入していてもその火災保険だけでは損害をカバーしきれないときに支払われる保険です。
これらの違いを理解しておくことで、火災保険に加入するときに決める保険金や特約などの補償の選び方、保険料などの費用負担の参考にもなります。
ガス爆発の場合はどうなる?
勘違いしやすいのは、火災に似ている災害、たとえば、ガス爆発などのケースです。失火責任法はあくまで”火災”を対象とする法律です。したがって、ガス爆発などが起こった際は、失火責任法の対象外となる場合があります。
ですから、ガス爆発などの災害に対しては、自分自身で補償を付けておく必要があります。保険の加入や見直し時に、どの災害がどの程度補償されているのか、補償内容をしっかり理解して用意しましょう。
近隣の消防活動で損害を受けた場合
近隣で火事が起こり、消防活動が行われた場合、自分の家も放水されたり、破壊されたりといった損害を被ることがあります。こうした消防活動による破壊活動は止むを得ない行為ということで消防法第29条1項で適法と解釈されています。つまり、消防隊側に補償の責任はなく、損害賠償を請求することはできません。
例外として、「その建物自体に延焼のおそれはないが、消防活動の効率上破壊された場合」などは、損害賠償を請求することができます。
しかしこの場合も、消防法29条3項で規定されている補償額は時価であり、再調達価額ではありません。つまり、建て直しや修繕をしようと思っても、経済的な理由でできないという可能性もあるということです。
火災保険では、自宅や近隣の住宅に対して行われた消防活動による損害も補償範囲に入ります。
ですから、そのような状況を回避するためにも、火災保険に加入すべきです。
まとめ
延焼・類焼により損害を受けた場合、通常であれば火元から補償を受けることはできません。ですから、自分の家に受けた損害は自分の家にかけている火災保険から支払うことになります。また、自分の家が火元になり近隣へ延焼させてしまった場合も、火災保険に加入しておくことで見舞金などを支払うことができます。
火災保険に入っておけば、自分の家で起こった火災だけでなく、延焼・類焼による損害もカバーできますので、火災保険にしっかり入り、自分の家や家財は自分で守るのが安心できるでしょう。
執筆年月:2017年11月
佐藤 益弘(さとう よしひろ)
CFP®、マイアドバイザー®登録ファイナンシャルプランナー。株式会社優益FPオフィス。 2000年の開業以来、常にお客さまに寄り添うサポーターであり続けるため、商品販売を伴わないファイナンシャルプランナーとして活動中。最近は住宅購入や住宅ローンの見直し、実家の空き家問題など不動産関連のご相談が多い。
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