株式会社M&F パートナーズの高橋です。
第4回のコラムでは「国のがん対策と経営者の皆さまに求められている3つの要請」というお話をさせていただきました。会社と従業員さまとそのご家族をがんから守るためには、治療現場の現状を理解し、その現状に合わせた実践的な対策を行うことが重要になります。
第5回目では、「三大治療の現状と大腸がん・前立腺がん・乳がん治療の現状」についてお話をさせていただきます。
皆さんもご存じのことと思いますが、がんの三大治療は「手術(外科治療)」「放射線治療」「薬物療法(抗がん剤治療)」です。
がんが発見された場合、日本では多くの患者さんが三大治療のうちのどれか、または2つ以上の治療を組み合わせた治療(集学的治療)を受けることになります。
手術はイメージがしやすいと思いますので、今回は「放射線治療」と「薬物療法(抗がん剤治療など)」を中心にお話をさせていただきます。
手術は局所(からだの一部)に対する治療で、目的は腫瘍や臓器の悪いところを取り除くことです。一般的にがんの手術では、がんができた臓器を大きめに切除します。
通院のみで行う場合もありますが、多くの場合、入院を伴います。
放射線治療は手術と同様、局所に対する治療です。がんの部分に放射線をあてて治療しますが、放射線があたっても、痛みや熱を感じることはありません。
単独で行われることもありますが、手術や薬物療法と併用されることもあります。
放射線治療の時間はおおむね 10〜30 分で、照射は土日と祝日を除き、毎日行うことが一般的です。ほとんどの患者さんは通院で治療を受けており、多くの場合、通常の日常生活を続けることができます。
薬物療法は全身に対する治療でがんを治したり、あるいはがんの進行を抑えたり、症状をやわらげたりする治療です。薬物療法には、「化学療法」「内分泌療法(ホルモン療法) 」「分子標的療法」などの種類があります。
がんの治療では、入院期間中に治療を行う「入院治療」と外来で通院しながら治療を行う「外来治療」が行われています。なお薬物療法には副作用があります。患者さんにより、薬の効果や副作用は異なります。中には治療後の生活にも関わるものもあります。
簡単にがんの三大治療についてお話をしましたが、ここでポイントになることが通院によるがん治療です。
がん治療と仕事の両立を考える場合、この通院治療とどう向き合うのかが大きなポイントになります。
ここからは罹患者数の多い大腸がん・前立腺がん・乳がんに関する基礎知識と実際の治療についてお話をさせていただきます。
まずは大腸がんについてお話をさせていただきます。
日本で最も多くの方が罹患し、肺がんに次いで多くの方が亡くなっているがんが大腸がんです。最新のデータ(2020 年)によると 1年間に147,725人の方が大腸がんの告知を受け、53,088人の方が大腸がんでお亡くなりになっています。(※1)
一方で大腸がんは罹患者数の多いがんではありますが、転移のない状態で発見された場合の5年生存率は98.8%と高くなっており、早期発見が非常に大切ながんでもあります。(※2)
また早期発見は、治療においても大きなメリットがあります。
大腸がんが非常に早い段階で発見できた場合には、からだへの負担が小さい内視鏡による手術を行うこともできますが、がんが他臓器に転移してしまっている場合には、体への負担が大きい薬物療法(抗がん剤治療)を行うことになります。
早期発見は、治療方法を考えるうえでも非常に大きなメリットがあります。
一般的に結腸がんと直腸がんを合わせて、大腸がんという言い方をします。
大腸がんの原因ですが、まだはっきりとしたことはわかっていません。ただし大腸がんを誘発するいくつかの危険因子については確認ができています。
大腸がんは、生活習慣と関わりがあるとされており、飲酒、肥満により大腸がんが発生する危険性が高まります。
大腸がんの検査では、便潜血検査(2日法)が行われています。まずはこの検査を1年に1回、受け続けることをお願いいたします。またもし要精密検査となった場合には、すぐに医療機関を受診して検査をお受けになってください。
次に男性が最もたくさん罹患している、前立腺がんについてお話をさせていただきます。 最新のデータ(2020 年)によると、1年間に 87,756人の方が前立腺がんの告知を受けています。(※1)一方で前立腺がんの5年生存率はがんの中で最も高く、ステージV(他臓器に転移のある状態)以外の状態で発見された場合の5年生存率は 100%となっています。(※2)
50代半ばから罹患者数が急増する、高齢者に多いがんです。
定年の延長に伴い、前立腺がんの治療をしながら仕事を続ける患者さんが、今後さらに増えていくと予想されています。
前立腺がんも大腸がん同様、はっきりとした原因はわかっていないのですが、前立腺がんの家族歴、高年齢が増加の原因として考えられています。
手術に比べ放射線治療の場合、合併症のリスクが小さいと言われていることから放射線治療を選択する方もいらっしゃいますが、その場合、通院による治療を数週間にわたり行うこととなります。 こうしたことを考えても、治療に対する職場の理解と支援が必要となってきます。
最新のデータ(2020年)によると、1年間に92,153人の方が乳がんの告知を受けています。(※1) 一方で、転移がない状態で発見された場合の5年生存率は100%となっています。(※2)
乳がんは30代になると罹患者数が急増し、40歳代後半まで罹患者数が増え続けます。仕事や子育て等で、女性が一番忙しい時期に多発するがんが乳がんです。
乳がんが多発する40歳から69歳までの女性の乳がん検診受診率は、過去2年間 47.4%と非常に低い水準になっています。(※3)
乳がん検診について、1つお願いしたいことがあります。一般的な乳がん検診ではマンモグラフィが行われていますが、是非、エコー検査を一緒に行うようにしていただきたいと思います。
マンモグラフィの場合、乳腺も腫瘍同様白く映し出してしまうため、映し出されたものが何なのかの判断が難しい場合があります。
エコー検査を併用することで、より正確な検査を行うことができます。
乳がんを誘発する危険因子については、いくつか確認されています。ほかのがん同様、欧米型の食生活の定着、過度な飲酒、喫煙、ストレスなども一因として考えられていますが、 エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの分泌期間の長い方、閉経後の肥満なども乳がんを誘発する危険因子となることがわかってきています。
なお転移がある場合には、薬物療法(抗がん剤治療等)が行われます。
手術の前にがんを小さくするために行う術前化学療法や、手術の後に取り残した可能性のある目に見えないような小さながんへの対応として行う術後化学療法をお受けになっている患者さんもいらっしゃいます。
お受けになる期間は、それぞれ3か月から6か月と長期間となります。
また患者さんごとに異なりますが、薬物治療の場合、副作用があらわれることがあります。治療の効果も副作用も患者さんごとに異なりますが、中には非常に重い副作用に悩まされている患者さんもいらっしゃいます。
投与の翌日は立ち上がることができないほどつらい副作用に悩まされている患者さんもいらっしゃるため、仕事との両立支援を考えた場合には、こうした副作用に対する対応も検討する必要があります。
治療の現状を知ることで、がん治療と仕事の両立支援を行う際の検討課題も明確になってくるのだと思います。
第6回のコラムでは、「がん治療と仕事の両立支援を行うメリット」についてお話をさせていただきます。
- ※1国立がん研究センター がん情報サービス 「がん統計」(全国がん登録)
国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計) - ※2全がん協部位別臨床病期別 5 年相対生存率(2011-2013年診断症例)
- ※3厚生労働省 国民生活基礎調査の概況(2022年)