株式会社M&F パートナーズの高橋です。
第2回のコラムでは「がんも早期発見が出来れば克服できる病気にもなってきている。早期発見のためには定期的ながん検診の受診が必要だ!」というお話をさせていただきました。そうした状況の中、今がんの治療現場では何が起こっているのでしょうか。また何が課題となっているのでしょうか。
第3回目では、「がん治療と仕事の両立支援が必要な理由」についてお話をさせていただきます。
まずは皆さんに質問があります。
昨今、入院が短くなってきていることは実感されていると思いますが、ではなぜ入院が短くなってきているのでしょうか?
実際に一般病床の平均在院日数(平均入院日数)を見てみると、1987年(昭和62年)に39.6日(※1)だったものが2021年(令和3年)には16.1日(※2)と半分以下になっています。
- ※1厚生労働省平成10(1998)年 医療施設(動態)調査・病院報告
- ※2厚生労働省令和3(2021)年 医療施設(動態)調査・病院報告
この質問をすると多くの方が、「医療技術が進歩したから。」とお答えになります。もちろんそれも間違いではありません。実際に従来から行われていた開腹手術よりも体への負担の少ない内視鏡による手術や、腹腔鏡手術・胸腔鏡手術なども行われるようになりました。
入院を伴わない日帰り手術も、頻繁に行われるようになってきています。
こうしたことも入院短期化の1つの理由ではあるのですが、しかし理由はそれだけではありません。
2008年よりスタートした政府による医療費適正化政策が、入院短期化のもう1つの理由です。
政府は成人病対策(特定健康診査の実施率・特定保健指導の実施率を向上させることとメタボリックシンドロームの該当者及び予備群を減少させること。)とともに平均在院日数の短期化を、この政策の柱としていました。
入院や手術等の治療を担当する大病院と入院前後の治療等を担当する地域の中小病院や診療所(クリニック)など、医療機関ごとの役割を明確にし、機能分化を行いました。
その結果、完治するまで入院をして治療を続ける従来型の治療方法から、完治をする前に退院をし、その後、通院により完治を目指す新たな治療方法が定着することになりました。
がんに関するデータを確認しても、主ながんの平均在院日数が非常に短くなってきていることがわかります。(※3)
がん全体:19.6日
胃がん:22.3日
大腸がん:16.4日
肝臓がん:20.8日
肺がん:21.1日
乳がん:15.4日
- ※3厚生労働省令和2年(2020年)患者調査
【参考】平成8年9月1日から30日の間に退院した患者さんの平均在院日数(※4)
悪性新生物:35.8日
胃がん:47.1日
大腸がん:40.0日
肝臓がん:38.4日
肺がん:50.1日
乳がん:データなし
- ※4厚生労働省平成8(1996)年患者調査
平均在院日数は政府により政策的に短期化されてきていることから、今後もさらに短くなることはあっても長くなることはないと思われます。
もちろん在院日数が短くなることは悪いことではないのですが、結果として今、通院でがんの治療をしながら仕事を続けていらっしゃる方が増えてきています。現在、がんの治療をしながら仕事を続けていらっしゃる患者さんは、男性が約18.6万人、女性が約26.2万人、合計で約44.8万人もいらっしゃいます。(※5)
- ※5東京都保健医療局「がんになった従業員の治療と仕事の両立支援サポートブック」
40代になると女性を中心にがんの治療をしながら仕事を行っている方が急増し、定年の延長等に伴い、今後さらにこうした傾向が堅調になると考えられます。
仕事をしながらがん治療を通院で行っていくことは、会社の支援(理解)がないと難しいと思います。
大切な従業員さまのがん治療を支えていくことが、従業員さまとそのご家族だけではなく、会社を守っていくことにつながります。
今やがん対策は、企業の大小を問わず、重要な経営課題となっています。
今回はがん治療と仕事の両立支援が必要な理由についてお話をさせていただきました。
では今、経営者の皆さまは具体的に何をしていけば良いのでしょうか?
第4回のコラムでは、実は今、経営者の皆さまが国から要請を受けている「国のがん対策」についてお話をさせていただきます。