株式会社M&F パートナーズの高橋です。
第7回と第8回のコラムでは「両立支援を行うための環境整備」について、お話をさせていただきました。
より実効性の高い「がん治療と仕事の両立支援」を行うために、会社の実情に即した支援策の策定をお願いいたします。
最終回の第9回目では、「がん治療を支える費用面でのサポート」についてお話をさせていただきます。
がん治療とお金というと「がん保険」をイメージされる方も多いと思います。もちろん「がん保険」はがん治療をサポートするために必要ですし、大切な従業員さまをがんから守るためにも必要になります。
では「がん保険」に加入していれば、費用面では安心できるのでしょうか?
「がん保険」を考えていただく前に、がん治療を取り巻く治療現場の現状についてお話をさせていただきます。
第5回のコラムでお話をさせていただきましたが、がんが発見された場合、日本では多くの患者さんが三大治療(「手術(外科治療)」「放射線治療」「薬物療法(抗がん剤治療)」)のうちのどれか、または2つ以上の治療を組み合わせた治療(集学的治療)を受けることになります。
これらの治療は公的医療保険制度が適用になるため、年齢や収入に応じて1割~3割の自己負担で受けることができます。
また高額療養費制度(※1)があるため、加入者が70歳以上かどうかや加入者の所得によって違いはありますが、私たちが支払う毎月の治療費には上限が設けられています。
- ※1高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額
(*)が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。 - *入院時の食費負担や差額ベッド代等は含みません。(厚生労働省保険局 「高額療養費制度を利用される皆さまへ」より引用)
まずは多くの方が受ける、公的医療保険適用の治療を安心して受けるための備えが必要になります。
でも必要な準備はこれだけではありません。
皆さんは、がんが今でも原因のわからない病気だということをご存じでしょうか。日本だけでも1年間に約100万人の方ががんの告知を受け、また38万人以上の方 ががんを原因としてお亡くなりになってしまっている、がんはそれほど患者さんの多い病気なのですが、実はがんは今でも原因がわかっていません。胃がんにはピロリ菌が、肝臓がんには肝炎ウイルスが、子宮頸がんにはヒトパピローマウイルスが関係している可能性があるとも言われておりますが、これもはっきりとはしておりません。
原因がわかっていないため、何が起こっているか?日本だけでなく全世界で、毎年新しい治療方法がどんどん開発されています。
そこで、皆さんに質問があります。
海外で開発された新しい治療方法で、安全性や治療効果が高いことが確認されている治療があった場合、その治療はすぐに公的医療保険適用となるでしょうか?
公的医療保険が適用になるためには、一定の時間がかかってしまうことも多いのだと思います。日本国内におけるその新しい治療の安全性と治療効果に関する十分な確認ができない限り、公的医療保険は適用になりません。
さらに質問です。もし公的医療保険が適用になっていない治療を受けることになった場合、その治療費はどうなるのでしょうか?
実は治療費は、全額自己負担の自由診療となってしまいます。また高額療養費制度も適用にならないため、大きな自己負担が必要となってしまいます。
たとえば、海外では承認されていますが日本ではまだ公的医療保険制度適用外の未承認薬を治療に使用した場合、使用する薬(分子標的薬)によっては 1,000万円を超える自己負担が発生することもあります。
がん治療の場合には公的医療保険制度適用の治療だけでなく、こうした自由診療となってしまう治療に対する備えも必要となります。
また通院治療についても、知っておいていただきたいことがあります。
以前の日本では長期の入院により治療を行ってきましたが、今は違います。短期の入院で治療を行い、寛解する前に退院し、その後、通院治療によって寛解を目指すことが多くなってきています。
医療技術の進歩だけが理由ではなく、治療方法に対する考え方が変わってきています。今後こうした傾向はさらに強くなると考えられることから、入院治療だけでなく通院治療に対する備えも必要となってきます。
可能な範囲で、がん治療と仕事の両立支援を行うために必要な資金的な準備についてもご検 討いただきたいと思います。
なおこの資金的な準備につきましては、すべてを会社が行う必要はありません。
会社がベースとなる資金の準備を行い、不足する部分については従業員さまに準備をしていただくような制度設計が必要だと思います。
資金的な準備を「がん保険」で行う場合、以下の点をご考慮いただき、採用する「がん保険」をご検討になってください。
- ①公的医療保険制度が適用になる、現在行われているがん治療に対応できるかどうか。
- ②公的医療保険制度がまだ適用になっていない、自由診療(新しい治療)に対応できるかどうか。
- ③入院治療だけでなく、今後さらに増えることが想定される通院治療にも対応できるかどうか。
がんは早期発見することにより、既に克服できる病気にもなってきています。一方で、がんに対する知識不足やそれに伴う偏見等が散見されることも事実です。
勉強会や研修を通して、がんについて会社全体で正しく理解してください。
そして、がんに罹患したとしても自分らしく生きることができる社会を実現するために、「がん治療と仕事の両立支援」に取り組んでください。
「がんと診断されても、すぐに仕事を辞めないでください!」とすべての従業員さまにお伝えいただきたいと思います。
今回のコラムでは9回にわたり、「がん治療と仕事の両立支援」についてお話をさせていただきました。難しく考えることなく、まずは始めてみていただきたいと思います。
今行うがん対策が、大切な従業員と会社を守ります!