株式会社M&F パートナーズの高橋です。
第3回のコラムでは「がん治療と仕事の両立支援が必要な理由」というお話をさせていただきました。早期発見できると、がんは克服できる病気にもなってきています。一方で医療技術の進歩や政府の医療費適正化政策により、治療方法が従来の入院中心の治療から通院中心の治療へと変わってきています。
そのため通院のがん治療をしながら仕事を続けているがん患者さんが増えてきており、今後、その数はさらに増えていくと考えられています。
そうした患者さんが安心して治療に臨むためにも、「がん治療と仕事の両立支援」を行っていくことが必要になってきています。
第4回目では、「国のがん対策」についてお話をさせていただきます。
国のがん対策をご理解いただくことは、非常に重要です。
なぜなら経営者の皆さまは国のがん対策の中で、がん治療と仕事の両立を支え、従業員さまをがんから守るために必要な具体的な要請を国から受けているからです。
何をしなくてはいけないのか?具体的にお話をさせていただきます。
まず簡単に、がん対策基本法とその改正法についてのお話をさせていただきます。
2006年に成立したがん対策基本法は、国のがん対策の根幹をなす重要な法律です。
その法律が2016年に改正され、改正がん対策基本法が成立しました。この法律の中で、経営者の皆さまは、従業員さまをがんから守るための3つの要請を国から受けています。
改正がん対策基本法の中に、こんな文言があります。
がん対策の一層の充実を図るため、がん対策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民、医師等及び事業主の責務を明らかにし、並びにがん対策の推進に関する計画の策定について定めるとともに、がん対策の基本となる事項を定めることにより、がん対策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。(※1)
- ※1改正がん対策基本法 第一章 総則(目的)第一条より抜粋
つまり法律の中で、がんに対する事業主の皆さまの責任が明らかにされたということです。ここでポイントになるのが、事業主という言葉です。従業員数や資本金等の条件が一切ないため、日本で事業を行っているすべての事業主の方が対象になります。
この要請は努力義務となっているため罰則規定はありませんが、法律の中での努力義務ということは、「やってください!」ということだと思います。
具体的な3 つの要請事項について確認していきます。
1つ目の要請は、「がんになっても働き続けられる環境をつくること」です。
国立がん研究センターが2020年10月に発表したアンケート結果(※2)によると、がんと診断確定された患者さんの約2割の方がお仕事をお辞めになっています。またその中の56.8%の方が、初回治療開始までにお辞めになっていました。
この時期にお辞めになっている方の退職理由は、①「周囲に迷惑をかけたくない」、②「体力的に続ける自信がなくなった」が圧倒的に多いのですが、初回治療開始前ということは、どんな治療をするのかも分からない段階で辞めてしまっている方もいるということです。また体力面については、職場の配慮があればカバーできることもあります。
- ※2国立がん研究センターが2020年10月に発表したアンケートの分析結果
2つ目の要請は、がん検診の受診を啓発することです。
皆さんご存じの通り、日本のがん検診受診率は欧米先進国と比べても極めて低い状況が続いています。第2回のコラムでもお話した通り、がんは早期発見が出来れば克服できる病気にもなってきています。そのためにも、がん検診の受診が必要です。
ただし、がん検診を受けてさえいれば良いということではありません。がんは精密検査を行わないと見つけることが出来ないため、検診後「要精密検査」となった従業員さんに対し、精密検査の受診を奨励することが大切になります。
3つ目の要請は、がんについて会社全体で正しく知ることです。
この要請は、従業員さまに対してがん教育を行ってくださいという要請です。
日本では長い間、学校でのがん教育が行われていませんでした。日本の学校でがん教育が開始されたのは2017 年からです。現在は、日本のすべての小学校・中学校・高等学校でがん教育が行われています。
もちろんお子様に対するがん教育は重要なのですが、ここで皆さんにお考えいただきたいことがあります。
皆さんは、国が本当にがん教育を行いたいと思っている対象がお子様方だと思われますか?私はそうは思いません。
国ががん教育を行いたいと思っている対象は、がんの罹患年齢に達している、または近づいている我々社会人です。
ところが日本には、社会人に対してがん教育をする場がありません。担い手もいない。そこで国は会社で、従業員さまに対するがん教育を行ってもらおうと考えました。
国は国民をがんから守るために、さらに医療費を抑制するために、がん対策に力を入れています。また医療費を抑制することは、日本が世界に誇る国民皆保険制度を維持することにもつながります。
そのために必要なことが、がんになりにくい生活習慣を身に付けること(生活習慣の改善)です。これに関しては、がん教育が必要になります。
次に必要なことが、徹底したがん検診の受診と要精密検査となった場合の精密検査の受診です。これに関しては、がん検診に関する会社での啓蒙活動が必要になります。
今やがん対策は会社の規模を問わず、重要な経営課題となっています。
会社と従業員さまとそのご家族をがんから守るために、国のがん対策を理解していただき、今すぐ具体的な取り組みを始めていただきたいと思います。
今回は国のがん対策と、その中で経営者の皆さまに求められている3つの要請についてお話をさせていただきました。
そうした要請に対応するためには、今行われているがん治療の実態を知ることが必要になります。
第5回のコラムでは、「三大治療の現状と大腸がん・前立腺がん・乳がん治療の現状」についてお話をさせていただきます。